寄付
ルー達の性事情さておき、俺とメアが机を挟んで座る。椅子は二つしかないので俺とメアが座り、あとの二人はベッドに座ってもらった。
「それで、俺に話って?」
「うむ。頼みがある」
「お金の話?」
「そうだ」
「ラミィを直で売ってくれ、とかじゃないよな?」
「私達は商人じゃない。買い取っても上手く販売する方法がないし、それは不要だ。ただ……将来的に、私達にお金を寄付してほしい」
「……寄付? でも、三人ってほぼSランクパーティなんだろ? お金ならたくさんあるんじゃないのか? 年間で一千万ルクくらいの稼ぎにはなると思うけど?」
日本円で十億円以上……。三等分でも一人三億円か。
「確かに、それくらいにはなる。が、足りない」
「……足りない? 何をする気だ?」
「一つには、金で平和を買う」
「……どういうこと?」
「例えば、貧しい地域に生活に必要なものを送り届ける。貧しい地域は、貧しいが故に犯罪が起きやすい。善人が盗賊になるのも、結局は金がないとかが主な原因だ。生活ができるようになれば犯罪は減るはず」
「あー、なるほど。それは一理あるな」
「もちろん、それで全てが解決するとまでは思っていない。しかし、犯罪がゼロにならなくても、十から五くらいに減るのであれば価値はあると思っている」
「うんうん。それはわかる。犯罪件数ゼロの世界なんてどこにもないだろうけど、被害者が減るのはいいことだ」
日本だって犯罪ゼロの社会ではなかった。それでも、その数が少なめだったから、平穏に暮らせる者もたくさんいた。
とはいえ。
「うーん、でも、国中でそういうことをやっていくなら、金はいくらあっても足りないな」
「そう。私達がいくら稼いだところで、全く足りない。だから、ラウルに金の無心をしに来たわけだ」
「……金持ちから金の無心をされるって新鮮だな。ちなみに、他には何を考えてる?」
「他には、モンスターに対抗する外壁のない地方の村に、壁を建設するとかもしたい。あるいは、ギルドの報償金を援助するなどもいいだろう。今は依頼人が全額を依頼料として出すが、その金額が少ないと誰も受けてくれないことがある。そこで、私達が多少の援助金を出すようにすれば、冒険者に渡る報酬の金額が上がり、迅速な対応が望める」
「なるほどね。それもまたいい話だが、金がかかる」
「他にもある。平和を買うとは別の話だが、もっと広い地域に学校を作りたい。私達が旅をする中で、文字を読めない者や一桁の足し算さえできない者もたくさんいた。なんとかしてやりたい。
本来なら国レベルでどうにかするべきことだが、国は動いちゃくれない。教育は、国にとっては都合の悪い面も多々あるからな。わけもわからず、国王は偉いのだ、ということで税金を納めてくれる国民の方が都合がよい」
「……あんまり言ってると反逆罪で捕まるぞ?」
「政権批判をしたいわけではない。ただ、国の手が回らないところを、私達がサポートしたいだけだ」
「……なるほどね。まぁ、他にも色々あるのかもしれないが、どれもこの国に必要なことなんだろうし、実現には莫大な金が必要なんだろうな。それで、わざわざ俺に寄付の依頼をしに来たわけか」
「そう。ラウルはこれから大金を手にするはずだ。ラミィを売るだけで、私達よりもよほどいい稼ぎになるかもしれない。有り余る金を、私達に寄付してほしい」
「……気の早い話だ」
「ライバルが大量発生してからでは遅いだろう? だから、先に唾をつけに来た」
「潔い言い方。確かにさ、大金が手に入っても、俺には使い道はないんだよな。別に自分で商売を始めたいわけでもないし、国をよくしたいとかも考えてないし」
「私が思うに、大金などあってもたいした意味はない。一個百ルクのパンが、一個一ルクのパンより百倍美味いわけでもない。片っ端から取っ替え引っ替え女を抱いたところで、やがて虚しくなるだけ。豪邸や高価な服を得たところで、ちょっと満たされた気分になるだけ。金は稼ぐほど幸せになるという代物ではない。それどころか、使い道を誤ればやがては身を滅ぼす」
「……メアの言うことはよくわかるよ。納得する」
ただ、元日本人感覚で言えば、こういう熱い話は胡散臭く感じる。詐欺にでもあっている気さえする。こっちはそこまで詐欺師が横行しているわけではないし、メアは信頼できる人間だとは思うが……。
しかし、メア達の思惑通りに関係者が動いてくれるとも限らない。学校を作るための金が、誰かの私腹を肥やすだけになるかもしれない。冒険者として優秀でも、どこまで人を思い通りに動かせるかは未知数だ。
「とりあえず、俺としては、自分と仲間が暮らしていけるのに十分な金があれば、あとは別に要らない。投資だろうが寄付だろうが、してやっても構わないとは思う」
「本当か!? では……」
「まぁ、待て待て。即決できる話じゃない。話し合いたい相手もいる。俺だって、自分でもっと考えないといけないとも思う。それに、メア達のことももっとちゃんと知るべきだ。大金を、よくわからん人にポンと渡すわけにはいかない」
「……それはそうだな」
「メアの話はわかった。だが、決断はまだ先にしてくれ。実際にお金が手に入ったわけでもないしさ」
「わかった。だが、考えてくれるだけでもありがたい。私達には、金が必要だ」
メアが真剣な眼差しで言う。
金が必要、とはまた大胆な発言だな。でも、使い道がある人にとっては、金はいくらあっても足りないんだろう。熱い気持ちだけで何かを変えられるほど、世の中甘くはない。
「ってか、リーダーはこう言ってるけど、二人も賛成してるの?」
念のため、ルーとフィラに確認をとる。
「あたしは、控えめな賛成かな? あたしが積極的にやりたいことじゃないけど、メアがそうしたいなら手伝うし、お金も全部あげる。お金で買える欲しいものは全部手にいれちゃったしさ。お金がいらなくてもまだ冒険者やってるのは、それが生き甲斐だからだね」
「ウチは、メアの考えに賛成です。素晴らしいことだと思いますし、ウチも自分のために使うお金はもう必要ないです」
「そ。なら、いいか」
実際に大金を手にすれば、これからも色んな話があるとは思う。ヴィリクはやや胡散臭いが、その次にメア達の話が聞けたのはいいことなんじゃないかと思う。宗教関係者とかが来ていたら面倒なことになっていただろうし、大金を持つことに早速うんざりしていたかもしれない。
そして、メアが続ける。
「ちなみにだが、私の話を受けてくれるなら、ラウル達は私達の庇護下にあると触れ回る。何かあれば私達が黙っていないとなれば、周りの連中も下手に手出しできなくなる。見返りとしてはささやかなものだが、決して悪い話でもないも思う」
「なるほど。なかなかいい交渉材料だ。三人の名前を借りられるだけでも、色々なトラブルは避けられる」
「……すまない。こんな交渉を持ちかけるのではなく、無償で守ると言えた方が良かっただろう。しかし、私達も決して慈善事業だけをやれるわけじゃない。それは理解してほしい」
「わかるよ。奉仕活動だけで生きいけりゃ、皆そうやってるだろうさ」
ともあれ、メアに金を寄付すれば、安全がかなり保証されるわけか。他の冒険者を雇うよりは信頼できる話だろう。
避妊具一つで、本当に色々と考えることが増えてしまった。悪い話ばかりではないはずだが、これから大変になりそうなのは少し煩わしいかもしれない。
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