懲らしめる
ソラを残して行ってしまうのは心苦しいが、ぐっすり眠っているのでそのままにした。スラミの片割れがいるから、何かあれば連絡できるのでいいだろう。
そして、俺達はギルドの裏にある修練場へ向かう。途中、ルーがのんびりと俺に尋ねてきた。
「ところで、この三人って、この町では有名なガラの悪い冒険者?」
「有名っちゃ、有名かな。表立って悪いことをしたって話は聞かないけど」
「ふぅん。裏でこんなことがあった、っていう噂は?」
「真偽は不明だが、色々ある。
冒険者始めたばかりの初心者パーティーを、手本見せてやる、ってことでダンジョンの深層に連れていったとか。その三人はその日以来姿を消した。ちなみに、女三人のパーティーだったらしいな。
まだ若い男の冒険者が、
他には……」
「あ、もういいや。こいつらが道を踏み外してるのは、十分わかったよ」
ルーが冷ややかな笑みを見せる。隣を歩くだけでかなりの威圧感。
ほどなくして修練場に到着。広さは学校の体育館くらい。冒険者は基本的に実戦で技を磨くため、あえてここで訓練する者は多くはない。すんなりと場所を確保できた。
俺達が対峙していると、外野から少々意外そうな声。
「あれ、ルー・ウィリアか?
「スライムマスターはどうでもいいが、相手は
「スライムマスターはなんなんだ? なんであそこに立ってる?」
俺がここにいるのはやはり場違いという認識らしい。無理もない。俺は世間的には地味地味した冒険者だ。
誰も俺に好意的な応援なんてしてくれないよなー、と思っていたら。
「ラウルさん! 怪我しないでくださいね!」
「お? エニタもいるのか。一人でも心配してくれる人がいるのはありがたい」
多少はやる気になってきた俺の隣で、ルーがニヨニヨしている。
「わざわざ観に来たんだねー。ほほー。ラウル、モテモテだなぁ」
「なんだ、それ。ただ観に来てるだけだろ?」
「……あれ? もう脱童貞したんじゃなかったっけ? まだそんなことを言ってるの?」
ルーが怪訝そうに俺を見る。なんのこっちゃ、と首を傾げていると、剣士が苛立つ。
「おい、こっちを無視して話し込んでんじゃねーぞ?」
「あ、ごめーん。あたし、弱い人にはあんまり興味ないのー」
ルーが挑発的に言う。剣士の頬がひきつった。
「……どうやらきついお仕置きが必要みたいだな」
「ごめんってー。でも、君達だって悪いんだよ? そんなに強くもないのに偉そうにしちゃってさぁ。弱いものいじめもたくさんしてるみたいじゃん?」
「……正義の味方気取りか?」
「そんなの気取ったつもりはないよ。ただ、あたしの嫌いな連中には悪人が多いだけ」
どこかの霊力者のようなセリフと共に、ルーが剣士を睨む。
「もういい。始める」
三人が殺気をみなぎらせて武器を構える。剣と、槍と、杖と。修練場では殺しはご法度なんだが、わかってるのかね?
一方、俺も剣を抜き、ルーも二本の細身の剣を持った。
「……最後に一つ、あたしから頼みがあるんだけど」
「ああ?」
「お願いだから、死なないでね?」
ルーが冷気を纏わせながら薄く笑う。
三人は、ルーの言葉にまた怒り心頭に発する。
「生意気言ってられるのも今のうちだ! 死ね!」
死ねって言ってるし。殺しちゃダメなんだけどな。
剣士と槍使いが俺達に迫る。魔法使いは何かの詠唱を始めた。
俺も応戦しようとするのだが。
「まだまだだね」
いつの間にか、剣士と槍使いの背後に回っていたルー。どこかの王子様のようなことを言った後、パチンと二本の剣を鞘に納めた。
それとほぼ同時、二人が気を失って倒れる。服が切り刻まれ、素っ裸になりながら。
「う……」
最近はセリーナの美しい裸体ばかり見ているせいか、男の体に拒否反応。一気に気持ちが落ち込んだ。
「Aランクパーティーなのに、弱すぎじゃない? 肩書きに寄り掛かって、鍛練を怠っているんじゃないかな? そんなんじゃ、ふとしたときにすぐに死んじゃうよ?」
ルーの声は冷ややか。だが、試合を観ていた観客からは歓声が上がる。
「おお! あのいけすかない連中に、ついにもの申してくれた!」
「Aランクだからって威張り散らして、鬱陶しいんだよ! 身の程知らずな
「お前らがいなくたってこの町は大丈夫だっての。どっか行けよ」
散々な言われようである。俺もこいつらは嫌いだったが、他の連中もそうだったようだ。
「ラウル! 最後は任せていいかな?」
ルーが、呆然としている魔法使いを指差す。その声に我に帰ったか、魔法使いがキョロキョロと俺とルーを見比べる。怯えているようだ。
「俺がやるのか……。もうルーが全部やってよ」
「ラウルの戦いが見たいの! ほら、頑張って! 美少女に応援されたら元気百倍でしょ! あ、エロい意味じゃないよ?」
「微塵もエロい意味は頭をかすめなかったっての。しゃーない。やるか」
「じゃ、あたしはたいさーん」
ルーが距離を取り、俺達をニコニコ笑顔で見つめる。
「……ま、いいや。戦おう」
「……ルーはまだしも、スライムマスターなんぞに負けるかよ」
魔法使いが無詠唱で氷の矢を飛ばしてくる。小技であれば速攻もできる、と。やはり優秀な魔法使いに違いない。
だが。
「全部食べちゃえ」
迫り来る氷の矢を、大きくなったスラミが取り込んで消化する。大技ならわからないが、この程度なら餌にすぎない。
「な、なんだと!?」
魔法使いが狼狽。本当に、俺のことは雑魚としか思っていなかったようだ。
「……少しは強いとこ見せた方がいいのかな」
足を強化しつつ、接近。魔法使いは動揺から脱せず、上手く対応できていない。剣を振り下ろすと、とっさに杖を掲げ、防御壁を展開。
しかし、俺は構わずに防御壁に向かって剣を振り切る。その際、剣に魔力を通して強化を施す。防御壁が壊れ、魔法使いはまたも動揺。
「な、一撃で!?」
「これくらいはできるんだけどな」
無詠唱の即席防壁ならば破壊は難しくない。装備している剣も、多少は質の良いものだ。銘も何もないのだが。
とはいえ、防御壁のない魔法使いをさらに攻撃するのは、いじめのようで気が引ける。
「ま、こんなもんだろ。終わりにしよう」
「ま、まだだ! スライムマスターなんぞに負けるわけぐぁっ」
俺は何もしていない。スラミが体から触手を伸ばし、魔法使いの頭をぶん殴ったのだ。
「お、おお、スラミ、どうした? もう勝ってるんだから、そこまでしなくても……」
『こいつら、嫌い。前、ソラにひどいこと言った』
「ああ、そういえば……」
骨と皮の化物、と呼んでいたのだったか。スラミはそれを覚えていたか。案外根に持つタイプなようだ。
「ま、自業自得だな」
魔法使いは白目を剥いて気絶。そして、観客からは拍手喝采だった。
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