一緒に暮らす

 それから、セリーナを一度起こし、帰宅する準備を始める。すると。


「帰ってしまうんですね……」


 セリーナがあまりにも寂しそうにするものだから、俺も胸が苦しくなる。

 ならば、と思い直す。俺達はまだ十代ではあるが、もう一人前に働く社会人。自分達のことは、自分達で勝手に決めればよいのだ。


「ねぇ、一緒に暮らさない?」


 誘ってみると、セリーナの表情が明るくなるが、やや狼狽も混じる。


「え、あ、でも……いいんですか? こういう関係になりましたけど、同棲はまた話が変わってくるんじゃ……」

「俺はセリーナといつも一緒にいたいな。あ、もちろん、ソラとスラミのことも大事に思ってるから、いつも二人だけでいちゃついてるわけにはいかないんだけど」

「それは……ちょっと残念ですが、構いません。あまりエッチに耽ってばかりなのもなんですし……」

「だなぁ。とりあえずさ、今日からうちに来なよ。ソラとは仲悪くないんだろ?」

「ええ、それは、もちろん。……本当に、行ってもいいんですか?」

「いいよ。あ、ただ、ちゃんとしたベッドは一つだけなんだ。スラミにマットみたいなのを作ってもらってて、俺はそれに寝てる。掛け布団はあるんだけどさ」


 俺は日本人感覚があるし、冒険者でもあるから、床に寝るのは全然気にならない。が、こっちではベッドが主流なので、人によっては嫌がるところ。


「寝床はそれで構いません。平気です。誘ってくださるなら……ラウルさんのところに、今日から行きます。準備するので、少し待ってください」

「うん。わかった」


 かくして、セリーナは俺の家に一緒に住むことになった。距離としては一キロも離れていないので、行き来は簡単。ソラがいる俺の家では存分にいちゃつけないので、セリーナの家が二人でいちゃつくための場所となりそうだ。

 ひとまず、セリーナは今日明日で必要な荷物だけを持ち、俺の家へ。

 二人と一匹で仲良く帰宅。絵を描いていたソラと対面したところ。


「……良かったわね。念願叶って」


 一瞬で全てを見透かし、ソラが言った。


「ん。まぁ、そういうこと、だ。それに、これから一緒に暮らす。いいか?」

「わたしは別に構わない。それで、わたしをどうするの? 邪魔になるし、もう一度売る?」

「んなわけないだろー。ソラはもう俺の家族だよ。ソラと離れるときは、ソラがどっか別の誰かと結婚するときとかだよ」

「……とかいって、セリーナもわたしも手に入れようとしてるでしょ」

「そういう下心も、なくはない」

「……ふん。わたしはラウルとエッチはしない」

「それでもいいよ」

「満足した途端に余裕ね」

「かもなー」

「セリーナ。はっきりさせておきたいんだけど、ラウルが暴走してわたしを抱いたらどうする?」

「暴走して、であれば許しません。でも、二人がきちんと同意を得てするのでしたら構いませんよ。わたくしはソラさんの幸せも願います」

「……あ、そ。よかったね。浮気の許可が出たわ。他に浮気したい相手はいないの? 言うなら今のうちよ?」


 ソラが挑発的に言う。スラミのことを思い浮かべ、答えに迷っていると、セリーナが刺のある声を出す。


「ラウルさん、他に誰か気になる女性がいるんですか? もしや、エミリアとも仲良くなろうとしてます?」

「あー、いや、女性っていうか……」


 頃合いを見て、と思っていたが、スラミが頭の上でぽよんぽよん跳ねて存在を主張。


「……スラミ、さっきの見せて」

「え? スラミさん?」


 スラミが再度女の子の姿になる。今度は服を着ている状態で、元気なロリ巨乳だ。


「セリーナ、ラウルと結ばれてよかったね! でも、ボクもラウルが好きなんだ! ボクも仲間にいれてよ!」

「……え? スラミさん、人間に化けられるんですか? っていうか、ここまではっきり言葉を話せるのですか?」

「うん! あの竜の核を食べたらできるようになったんだ! だから、ボクもラウルとエッチしたい! もっと仲良くなりたい! ダメかな?」

「……ラウルさんは、どうしたいんですか?」


 セリーナの視線が冷ややかだ。ついさっきまで情熱的に交わっていたのに。

 

「……スラミのことも、大事だよ」

「で、エッチしたいんですか? 正直に言ってください」

「……正直言うと、してみたいとは思う」


 はぁー、と大きな溜息が二つ。


「……男性は、なんといいますか、しょうもないですね。ついさっきまで、もうわたくし以外は目に入らないと言うくらいでしたのに。わたくしでは満足できませんでしたか?」

「そんなことはないんだけど……」


 尻すぼみになる俺。セリーナはまた大きく溜息。


「まぁ、スラミさんならいいです。好きになさってください。もともと、わたくしが独り占めできるとは思っていませんでした。ソラさんのこともありますから。

 それに、男性からすると愛と性欲はまた別だとも聞きます。抑え込んで変なタイミングで爆発しても困りますから、ちゃんと節度を持って発散させてください。

 でも、わたくしのことを疎かにするようでしたら……許しませんよ?」

「お、おう」


 視線は鋭いが、案外あっさりとセリーナから許可が出た。ホッとしたが、本当に大丈夫かは心配なところ。まぁ、確かに、日本ほど浮気や不倫を大罪とみなす風潮はない。高ランクの冒険者も、複数の女を囲っていることはよくある。逆に、女が複数の男を囲っていることもあるのだけれど。


「セリーナ、許してくれてありがとう! ラウル、ボクもたくさん気持ち良くしてあげるね! もっともっと仲良くなろう!」

「うん……」


 ソラの視線も痛いが、うん、ここは見なかったことにしよう。

 話がついたところで、スラミには元の球体に戻ってもらう。スラミは人間の姿で遊びたい気持ちもあるらしいが、俺はスラミのぷっくりした球体フォルムが好きなのだ。女性とは違った癒しを与えてくれる。

 そうこうしている間に日暮れも近くなったので、夕食をささっと用意した。

 食事中、ソラだけは俺に対して冷ややかだったが、後にセリーナから聞いたところ、実のところソラは特段怒ってはいなかったらしい。

 苛立っているように振る舞ったのは、俺がソラと仲良くするのをセリーナが嫌がるだろうと考えていたから。本当にもう、健気でいい子過ぎた。必ず幸せにしなければと決意を新たにした。


 その後、俺とセリーナはスラミ製のふとんで並んで眠った。ソラの手前、控えめではあったけれど、手を握っていた。

 一日の終わりに、愛しい人が隣にいる。そして、朝目が覚めたら、その愛しい人がまた隣にいてくれる。

 なんて、素晴らしいことだろう。

 もう他になんにもいらねーや、と半ば本気で思った。他の女に興味がないとは言えないが、体の関係を持つ相手が他に出てくるのか疑問に思う。

 始まりは奴隷を買ったことで、当初の目的は果たせなかったけれど、そこから色んなものが変わり始めた。まだまだ変化の途中なのだろうが、心満たされる幸せに溢れている。満足だ。


 今となってはなんだか本当にオマケ程度の話に感じるのだが……避妊具を売りに出したらどうなるのだろうか? 本当に売れるのかな? 答えはまだ先になるが、明日にはエミリアに相談だ。

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