ダンジョン探索

 手近なダンジョンは、町から出て東に二キロほど進んだ場所にある。浅い階層であれば弱いモンスターしかいないから訓練にはちょうどいい。深い階層には強いモンスターもいるのだが、行かなければいいだけの話。

 なお、ダンジョンは誰でも出入り自由ではあるのだが、入り口付近に管理人が常駐している。子供が好奇心に任せて侵入することなどは防止しているのだ。

 町を出て街道を歩きつつ、回りに人がいなくなったところでセリーナに尋ねる。


「ところで、セリーナさんのステータスってどんなもん? 教えてもらっていい?」


 ステータスは、基本的に他人には見せない秘匿情報。ただ、同じパーティを組む者には公開しておくのが慣例……らしい。俺はパーティ組んだことないからよく知らんけど。

 なお、ステータスオープン、とか唱えたってステータスは見られないが、冒険者ギルドなどにステータスを確認する魔法具が置いてある。


「はい。わたくしのステータスは……」


 セリーナが口頭でステースを教えてくれる。


 職業:魔法使い

 得意属性:炎

 体力:265

 物理攻撃力:58

 物理防御力:36

 魔力:475

 魔法攻撃力:124

 魔法防御力:148

 スキル:毒耐性


「へぇ、なかなかいいんじゃない?」


 属性的には医療系の魔法と愛称抜群とはいかないが、『癒しの炎』などもあるので、悪いわけでもない。冒険者を目指すなら、攻撃も回復も担えるタイプだろう。回復専門の僧侶系に回復魔法では及ばないとしても、いてくれるとありがたい存在だ。


「良いでしょうか? モンスターとの戦闘経験が浅く、ステータスとしてはあまり高くないのですが……」


 ステータスは、モンスターと戦わなくてもある程度上がる。しかし、どうやらモンスターと戦っているときとはステータスの伸びが違う。モンスターを倒すとなにかしらの強化因子が体に取り込まれるのだろうというのがもっぱらの噂。そして、レベルという概念はなくて、レベルとは関係なくステータスが上がる。


「普通に暮らすなら十分だよ。ちなみに俺のはこれ」


 俺は細かい数字は覚えていないので、ステータスを記したメモをセリーナに見せる。


 職業:魔法剣士

 得意属性:なし

 体力:1,270

 物理攻撃力:346

 物理防御力:320

 魔力:1,479

 魔法攻撃力:543

 魔法防御力:518

 スキル:スライムマスター


「……素晴らしいですね。今、冒険者ランクはCでしたか?」

「うん」

「これならBランクにはなれると思いますが?」

「俺は安全第一だからなぁ」


 Cランク冒険者は、中堅というか、ひとまずは一人前という感じ。Bランクになると一流で、Aランクは超一流。Sランクというのは国を代表する数名の冒険者のことで、他と一線を画す実績が必要。災害級のモンスター、破滅の竜ヘル・ドラゴンなどを討伐した者に与えられる。俺には無縁だ。


「……安全第一は良いことですね。しかし、このステータスなら、スキルが『スライムマスター』だろうがなんだろうが、無関係にもっと良い評価をされるべきだと思いますよ」

「そうか? 俺の兄弟姉妹はもっと化け物じみたステータスだからなぁ。あんまり実感ないんだわ」

「ラウルさんが強いことはわかっていましたが、安心しました。しかし、わたくしに付き合わせてしまって申し訳ありません。退屈でしょう?」

「いやいや。俺は別に生き急いでないからね。大金を稼ぎたいわけでも、世界有数の冒険者になりたいわけでもない。日々を楽しく過ごせれば十分。デート気分で楽しませてもらうよ」

「……デートはやめてください」

「おっと、ちょっと緊張感無さすぎたかな? これでも、ダンジョン入ったらちゃんとするから安心して」

「そうじゃなくて……初デートがダンジョンとか、嫌じゃないですか」

「……あ、そういう話?」

「デートは、もっとちゃんとしたところがいいです」

「そだねー」


 現状、俺とセリーナの距離感は曖昧なところがある。セリーナは俺に好意を持ってくれているらしいが、エミリアと話したとき以来、それを明確に伝えてくることはない。実にふわっとしている。友達以上恋人未満的な感じだろうか。この関係を発展させていいのかわからず、曖昧なままでなんとなく過ごしている。要は俺はヘタレである。

 話しているうちに、順当にダンジョンに到着。ここのダンジョンは、地中から石造りの武骨な門が露出しており、そこから下れるようになっている。道幅は三メートルくらい。

 ダンジョンの仕組みはよくわかっていない。モンスターがいるがダンジョンから出てくることはなく、ダンジョン内には宝箱が散在。深く潜るほど、宝箱に貴重なものが入っている。俺は十四階層までしか行ったことがないが、どこまでも深くまで続いているとか。ここでの人類の最高到達点は二十七階層。それ以降ももっと下があるらしいが、人類には未踏。


「じゃ、行こうか」


 俺は剣を抜き、肩に乗ったスラミを撫でつつ、セリーナを促す。セリーナは杖を握る手を震わせていたが、こくりと頷いた。


「……はい」


 ダンジョン内に足を踏み入れると、空気が変わる。精神を緩やかに蝕むような冷気に満ちて、この場にいるだけでも神経がすり減る。

 階段を降りきると通路があり、雰囲気は洞窟。ただ、ダンジョン内は不思議と一定の明るさが保たれていて、視界は確保できている。

 まずは一本道。セリーナの歩調に合わせつつ、慎重にゆっくりと進む。モンスターの気配を探るが、まだ近くにはいない。

 五分ほど進むと、モンスターの気配


「いた。来るぞ」

「はい」


 目の前の曲がり角から、しわくちゃな緑の小鬼、ゴブリンが一匹出現。薄汚れた短剣を持ち、俺達に向かって走ってくる。

 ゴブリン一匹なら、俺が剣を一振りするだけで退治できる。しかし、それではセリーナの訓練にはならない。

 俺は前進し、ゴブリンに対して防戦で時間稼ぎ。その間にセリーナが詠唱し、バレーボール大の火球を飛ばす。火球はゴブリンの頭に当たり、一気に燃やし尽くす。頭部のないゴブリンが地面に倒れた。なお、死体は、ダンジョン内なら放置しておくと勝手に消滅する。


「これくらいは余裕ってことね」

「……ラウルさんが前衛にいるからです。落ち着いて詠唱もできました」

「意外と焦ってたの?」

「そうですね。やはり、モンスターを見ると少なからず動揺します。格下とはわかっていても、殺意を向けられるのは怖いです」

「それはそうだ。少しずつ慣れていこう」」

「はい」


 俺達のダンジョン探索は続き、奥へと進んでいく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る