依頼
スラミと談笑しつつ、早足で歩いて西の森へ到着。依頼書の案内の通りに林道を抜けると、巣の場所はすぐにわかった。森の中に一軒の廃屋があり、そこに巣ができていたのだ。
「結構でかいな……」
「んーどうすっかな……。スラミ、この大きさ、一気にいけるか?」
木の陰から廃屋を眺めつつ尋ねる。スラミは、任せろ! という風にふるんと震える。
「スラミは頼りになるなぁ。なら、頼むよ」
俺のジョブは魔法剣士。スキルなしでもそこそこの実力は有していて、一通りの攻撃魔法を使えるし、この巣を破壊する程度の炎を産み出すこともできる。しかし、この森の中で炎を使い、周囲の森に延焼させてしまっては申し訳ない。また、携帯している剣で戦うには、
こういうときはスラミの出番だ。普段は頭部サイズで、今はその半分。でも、今は体を小さくしてもらっているだけで、本当はもっと大きい。なお、どうやって縮んでいるのかは俺にもよくわからない。
「解放していいぞ」
ふるん! とスラミが震えて、体を膨張させる。俺がスラミと出会ってから、スラミは少しずつ大きくなっていった。同族を取り込んでも大きくなるし、普通に飯を食っても成長していく。また、俺の魔力を吸収してそれを蓄積していく性質もある。
他にも、スラミには様々な性質がある。戦闘で活躍できる能力は限られているが、スラミは本当に有用なやつだ。
スラミが本来の大きさを取り戻す。いつの間にかまた大きくなったみたいで、本来の半分サイズなのに、直径五メートルの巨大な球体になっている。
「でかくなったなぁ」
てへ、とばかりに、ふにゅんと揺れる。
「じゃあ、頼む」
スラミが形状を変え、薄く引き伸ばされる。そして、青い膜のようになって廃屋全体を一気に包み込んだ。
突然の出来事に、
要は
巣本体はスラミがほぼ食ってくれたのだが、ハグレが何匹かいたので、それは俺が剣でちまちまと対処した。
しばらくすると、スラミが巣と
「よくやったぞ、スラミ。ありがとう」
えっへん! とスラミがふるんと震える。可愛いなぁ。
「じゃ、帰ろっか。スラミ、また小さくなって」
スラミが収縮していき、俺が肩に乗せても問題ないサイズに変わる。
「俺、『スライムマスター』で良かったよ。スラミにも出会えたし、戦闘でも活躍してくれるし」
危険を伴うので試さないが、スラミがいれば恐らくAランクモンスターのドラゴンだって倒せるはず。それくらいすればもっと女の子にもモテたんだろうか? でも、スラミの身を危険にはさらしたくないなぁ。
一仕事終え……といっても俺はほとんど何もしていないが、拠点であるホルムの町に向けて歩き始めた。
そして、また二時間ほど過ぎる。
町にたどり着いて、ギルドに結果の報告。俺の報告だけではまだ完了せず、後日依頼主から完了確認報告があれば俺に報酬が支払われる。一日で百五十ルク、つまりは二万円弱というのは、俺の感覚ではなかなかに良い報酬だ。
事務処理が終わると、エニタがにっこり笑う。
「今回もありがとうございました。ラウルさんがいてくださるおかげで、お困りの方々がたくさん救われています」
「まぁ、これくらいならね。『スライムマスター』じゃあまり大きな仕事はできないけど、細々と活躍させてもらうよ」
まぁ、危険がないように引き受けるものの難易度を低く抑えている部分もあるが……。
ひそかにそう思っていると、エニタが控えめに言う。
「……皆さんはラウルさんを役立たずだと思っているみたいですけど、それ、本当はフリじゃないんですか?」
おっと、エニタは何か気づいている様子。んー、ここはとぼけておくか。
「え? どういうこと?」
「……実力が足りない、将来性もないから、安全にできる比較的簡単な仕事しかこなさない。そう評価している人ばかりですけど……本当は違うんじゃないかって、わたしは思っています」
「えー? そんなことないよ。スライムを自在に使役できるからって、何か大きなことができると思う?」
「でも……
「強くないよー。買い被りってやつ」
「そうですか……。ただ、とにかくラウルさんは信頼できる人だと思っています。小さな仕事であっても快く引き受けてくださって、本当に感謝しています」
「まぁ、それくらいはね。無償で働くほど善人ではないけど、できる範囲のことはやっていくよ」
「……はい。頼もしいです」
「じゃ、この後用事があるから、またね」
「あ、それって……。いえ、なんでもありません。また、宜しくお願いします」
エニタに見送られ、ギルドを後にする。日はまだ高く、午後二時過ぎという感じ。こっちには正確な時間がわかる時計が存在しないのでわからないが。セリーナとの約束にはまだ少し早いので、一時間ほど町をぶらぶらした。
それから、まだ早いかなと思いつつ家に戻ると、既にセリーナが部屋に来ていて、ベッドサイドの椅子に座っていた。別に合鍵を渡しているとかではなく、家に常駐しているスラミBが招き入れている。
「お、意外と早かったな」
「はい。少し早めに店じまいしました」
「俺の方が遅くなって悪いね」
「いえ。わたくしも先程来たばかりですし、勝手に早く来ただけですから。それに、ソラさんもいらっしゃいますので、退屈ではありませんでしたよ」
「そう。ならよかった」
ベッドに横になるソラは俺の姿をチラリと確認した後、視線を逸らしてしまう。いつものことだから気にしない。
「ソラ、帰ってきて早々だけど、セリーナと一緒に少し出掛けてくる。日暮れ前には帰るよ」
「……別に、朝帰りでも構わないけど」
ん? と少し違和感。ソラの言葉に刺があったように思う。
「俺とセリーナはそういうのじゃないよ。この前作ったあれを、セリーナの知り合いの商人に見せに行くだけ」
「……あ、そ。訊いてないけど」
つーん、という表現がよく似合う。あれ? ソラ、もしかしてセリーナに嫉妬してるの? 俺のこと、この五日間で多少は意識し始めてる?
「まぁ、とにかく行ってくるよ」
「勝手にどうぞ。私はただの奴隷だから、お構い無く」
ソラの態度に、俺は苦笑するばかり。
セリーナに視線をやると、セリーナもやや困り顔。
「……朝帰りにはなりません。ラウルさんはソラさんのことをとても大事に思っていますから、一人になんてしませんよ」
「私は一人でも平気」
「……そうかもしれませんね。だとしても、ソラさんと一緒にいたいのはラウルさんですから、我慢してあげてください。相手はご主人様でしょう?」
「……好きにすればいい」
「ですね。ラウルさん、そろそろ行きましょうか。あまり遅くなってもエミリアに悪いですので」
「あ、おう。ソラ、行ってくるよ」
「さようなら」
「……せめて、またね、がいいな」
ソラからの返事はない。疲れた、とでも言うように目を閉じて動かなくなる。本当に打ち解けるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
セリーナが先に部屋を出て、俺も後に続く。
「スラミ、もうちょっとだけ留守番宜しくな!」
オッケー! と、スラミBがふるるんと震えた。
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