どうしよう?
性行為を目的として女奴隷を買うことが、女性受けが悪いことは容易に想像がついていた。だから、俺が奴隷屋に行った話を始めたとき、セリーナの目付きが険しくなったのは想定内。怖かったけど。
しかし、ソラを見つけて購入し、どうにかして元気にしてやりたいし幸せを感じられるようにしてやりたいという思いを口にすると、セリーナの表情が幾分か和らいで、アドバイスをくれた。
「精神的な傷は、容易に癒すことはできません。一生治らない可能性もあります。しかし、幸せになることを諦めてほしくないというのはわたくしも同意見です。
とりあえず、肉体的な衰弱が心配です。本人が拒んだとしても、半ば無理矢理でも栄養を取らせる必要があります。もとの体型に戻ることに抵抗があるようでしたら、すぐに回復させるのは逆効果でしょうから、少しずつですね。
栄養剤と、精神を落ち着かせる薬、空腹を紛らす薬を処方しましょうか」
「おお、ありがたい。特に、食欲ないって言うけど、絶対きついと思うんだよな。腹減ってても食べたくない、って感じだろうし」
「多用は避けてください。既に衰弱していますから、多用して何も食べなければ命に関わります」
「わかった。なるべく飯を食わせるよ」
「はい。あと……あまり個人の事情に首を突っ込むべきではないかもしれませんが、女性の手が必要でしたら、わたくしもお手伝いします。いつでも、とは言えませんが、閉店後などであれば、呼んでいただければ向かいます」
「いいの? なんか、流石にサービス過剰じゃない?」
「かもしれません。でも、同じ女として、見過ごせないものがありますから」
「……そう。なら、そのときは頼むよ。俺だけじゃ難しいこともたくさんあるからさ」
セリーナが微笑み、俺は気恥ずかしい気持ちになりながら微笑み返す。女に飢えた俺に迂闊に笑いかけないでほしいね。惚れてしまうじゃないか。
ともあれ、セリーナから栄養剤と薬を買った。四十ルクと、そこそこのお値段。貯金余ってるからいいけど。
セリーナにお礼を言ってた店を出ようとしたのだが。
「お名前を伺っておいても?」
「ん? ああ、俺、ラウル・スティーク。冒険者やってる。スキルは『スライムマスター』だけど」
「『スライムマスター』ですか……。あまり戦闘向きには思えませんが……」
セリーナは純粋に俺を心配してくれている様子。スキルを明かしても見下す感じにならないのが珍しい。しっかりしたひとだし、笑顔も可愛いし、スキルでにひとを判断しないし、やはり素敵な女性である。
「案外戦闘でも活躍すんだけどな。ま、死なないようには気を付けてるよ」
「……お気をつけて。ソラさんには、あなたしかいないのですから」
「おう。わかってる」
セリーナと別れ、俺は薬屋を出る。
収穫はあったが、一番大事な避妊具はこの世界に存在しないことがわかってしまった。向こうのコンドームだって百パーセント完璧なものではないらしいが、これは……どうしよう?
「うーん……ないものは作る、が手っ取り早か……」
日本にあってこっちにないものは、欲しいものであれば作る。
とはいえ、こっちでゴム製品なんて見たことはないし、どうやってゴムができているかも詳細は知らない。仮にゴムがあったとしても、薄くて丈夫なものを作る技術も知識もない。
俺がうんうん唸っていると、肩に乗せたスラミがふるふると震える気配。どうしたの? と可愛らしく問いかけてくる。マジ可愛い。
「まぁ、スラミに言っても……ん? できるんじゃね?」
スラミの体は非常に便利だ。形状を変えることはもちろん、硬度もかなり自在。ゴムのうにもできるし、鉄とまではいかないが銅くらいの硬さにはできる。人格を共有して二つに別れることも可能だが、人格のない単純な一部分離も可能。
「スラミ……後でちょっと試させてくれ」
よくわからんが任せろ! とスラミがふるふる震える。素直で健気で、スラミは本当に素敵なやつである。女の子だったら惚れていたに違いない。いや、人型になってもらうことも可能なのだけれど、スラミはそういう対象ではなく相棒として仲良くしたいので、人型にはしない。
帰宅途中、少し遠回りして食料を到達。スラミにあげるリンゴを購入。スラミが嬉しそうにぷるぷると震えていた。
帰宅すると、ソラは外出時と変わらない状態で眠っていた。一瞬、死んでいるんじゃないかと思ってしまうくらいに生気が感じられなかったが、ちゃんと息してる。良かった。
「スラミ、留守番ありがとう。何か変化あったか?」
スラミBに小声で尋ねる。肩に乗ってるスラミAに訊いてもいいのだが、気分の問題だ。
スラミBはふるふると震え、「少し泣いてた」と伝えてくる。
「……辛そうだった?」
また震えて、「そんな感じじゃない」と言う。
「ふぅん……。なら、いいか」
ベッドサイドのテーブルに置いた食事には手をつけていない。体を起こすのも億劫だったかもしれないので、目を覚ましたら食事介助も試みよう。
「さてと」
ソラのことはさておき、避妊具である。
「スラミ、とりあえず合体して、それから俺の指を薄く覆う形で部分的に分離してみてくれ。柔らかくて柔軟性のある状態がいい」
指示を出すと、スラミが合体し、早速俺の人差し指にまとわりついてくる。それから指に薄い膜を残して離れた。
「お? これ、やっぱりいけるんじゃね?」
スラミの薄い膜は、概ね俺のイメージしているコンドームと似ている。膜の上からでも指先には感覚があるし、簡単には穴も空かない。まだ柔らか過ぎるし擦っていたらだんだんずれていくので、本来の目的での使用は難しいだろうが、改良すればちゃんと使えそう。
「スラミ、これはまた、お前の新しい活躍の場が見つかったかもしれんぞ」
笑いかけると、スラミはきょとんとして体をくねらせるのみ。そりゃ、スラミにはなんのことかわかるまい。
ソラが眠っている横で、スラミと改良を続ける。一時間ほどで、必要な高度や柔軟性をもった形にもできてきた。実物を見たことがあるし、知っているものを作るのは比較的容易だ。スライムとゴムが似ているのもありがたい。
あとは実際に装着して使用感を確かめていくべきなんだろうが……ソラ相手に試すわけにはいかないし、ソラの前で自慰をするのもためらわれる。
そうするうちにソラが目を覚ます。
「お、目が覚めた? りんごのすり下ろしでも食べね?」
「……いらない」
「まぁまぁ、そう言わずに。腹は減ってるだろ? 死ぬことは許さないからな。少しでも食っとけ」
ソラの返事も待たず、俺はすりりんごを用意。
「……いらないって言ってるのに」
「いらねーことはないさ。あと、空腹を紛らす薬とかもあるから、ほどほどに飲んどきな」
ソラを手伝い、上半身を起こす。半ば強引にすりりんごを食べさせる。やはりお腹は空いていたのか、今回は素直に食事を摂ってくれた。ついでに栄養剤もあげておく。
簡単な食事を終えると、ソラはまたすぐに横になる。
「少しずつ元気になりな。時間はかかってもいいからさ」
ソラからの返事はない。ただ、拒絶はされていないので、こんな感じで少しずつ打ち解けていけばいいだろう。
「……んー、今日は
それからは、今日はスラミと遊んだり軽い訓練をしたりして過ごす。
奴隷を買うという、俺からすると一大イベントが終了したわけだが、残念ながら悶々とした日々はもう少し続きそう。早く童貞を捨てたいが、焦らずにいこう。
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