真夜中献血ルーム
真夜中にぽつりと光る献血ルームは、吸血鬼用の血を提供する場所だ。近年ようやく人権が認められた彼らは、それでもやっぱり日の光にあたると消えてしまうので、こうして夜中のスペースを借りているらしい。そこで働くあいつもまた、吸血鬼だった。
俺は人間だけど、ふた月に一回、そこで献血をしている。その献血ルームでは2通りの方法で血を提供することができて、一つは普通の献血と同じ、針を刺して機械で吸って、パックに詰めていく方法。もうひとつは、直接吸ってもらう方法だ。きっかりふた月経つと、俺はあいつを引きずって、献血ルームにやってくる。衛生的じゃないと嫌がるあいつに腕を押し付け、しかたなく俺の血を飲むあいつをじっと見る。
幼いころから血を見るのが好きで、高じて外科医にまでなった俺を、あいつは絶対に吸血鬼にしようとはしなかった。どんなに頼んでも脅しても、涙目でそれだけはしないと折れないあいつに、その代わり血を飲む姿を見せろと迫ったのはいつだっただろう。べつに飲まれなくともだらだら流していればいいだけの話だけど、なんだかもったいない気もするし、吸血鬼が舐めると傷の治りが早いのだ。先生傷だらけよね、と看護師の間で噂になるのは避けたかった。「抗凝固剤がまずいって言ったのはうそだから」とあいつは何度も直接献血をやめるよう訴えたけど、俺は聞き入れなかった。自分の血を見るのが好きだなんて、ナルシストみたいな理由を知られたくなかった。
なのにあいつは、ある日とうとう灰になった。「ごめんね」という紙切れの隣に、さらさらとした灰の山ができていた。かき集めた灰を俺は近くの山の中に埋めた。「俺のためなんだよ」そう一言、言えばよかったのだろうか。墓標代わりにシリンジを突き立てたその場所に、俺は今日も指先から血を落とす。
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