まぶしいきみの影にいるから
妹が都内の有名女子中学校に合格したころから、彼女の顔がまぶしく見えるようになった。まぶしいというのは比喩ではなくて、本当に白く輝いて見えるのだ。ちいさい頃から、本当に同じ親から生まれたのかと思うほどにかわいくて、おまけに頭も良かった妹のことだから、わたしは別に驚かなかった。まっすぐさらさらな黒髪をなびかせて、「ちょっと大きかったかな」と真新しい制服ではにかむ彼女がまぶしくみえるのは、むしろ当然のことのように思えた。
妹が高校にあがると、表情を読み取るのが難しくなった。彼女が日本で一番賢い大学に合格したとき、ついにそのご尊顔は、まるでよく晴れた雪原のように白く輝くようになっていた。不思議なことに、わたし以外の人にはまったく普通に見えているようで、毎朝口元にパンくずをつけているらしい彼女を注意できる母がうらやましかった。わたしと彼女は同じテーブルの向かい側に座っていたけれど、まるでスポットライトを照射されながら食事をするような環境は、いくら彼女のことが好きでも耐えがたく、いつしかわたしは自室で食事するようになった。彼女の顔を直視できず、声も光にかき消されて届かなくなっていたので、彼女とわたしをつなぐのはもっぱらメールと手紙だった。同じ家に住みながら、彼女とわたしは交換日記をしていた。
就職が決まり、わたしは家を出ることになった。引っ越しの前夜、久しぶりに服の裾を引かれた。サングラス越しでも太陽はまぶしいように、暗い廊下でもやっぱり、彼女の表情や声は届かなかった。きっと何かを伝えようとしていた彼女をわたしは必死で見つめようとしたけれど、視神経が悲鳴をあげて、涙があふれ出したところで諦めた。わたしが目を押さえてうつむくと、彼女はそっと手を離した。
彼女は卒業後、あまたの引く手をぶっちぎってフィンランドに留学したらしい。このあいだ、彼女からメールが届いた。白々とかがやく夜の地平線に立ってこちらを振り向く彼女は、やっぱり神々しいほどうつくしい。最大画質で印刷して、わたしはその写真を机の前に貼った。翼を焦がして落ちる勇気のなかったわたしは今日も、彼女の残光に囲まれながら眠りにつく。
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