次はいい人見つけなさいよ

 なんか変だな、とは思ってた。風もないのに物は落ちるし、帰ってくると壁中からピシパシ音は鳴るし。けどあたしは霊感ないし、金縛りだって経験ないし、ここ安かったし立地もいいし、ま、気のせいかなって思ってた。死んだじいちゃんからもらった、ガラスの飴入れが砕けてるのを見るまでは。

 チェストの上に滑り止めシートを敷いて置いてあった、震度5でも落ちなかったガラス瓶が砕けているのを見て、いよいよこれはまずいかも、って思った。職場の後輩に話したら、霊感があるというので見てもらう事にした。部屋に入るなり、後輩はうわっと鼻をつまみ、これやばいっすよ、と言った。部屋中を案内して、一番やばそうだという洗面所と寝室と玄関に、小皿に盛った塩を置いてもらった。「一応、盛っておくんで、絶対触らないでくださいね」

 お礼を渡そうと思ったけれど、水臭いと断られたので、割れた瓶から出てきた塩飴をあげた。じいちゃんは初孫のあたしをたいそうかわいがってくれて、家に行くたびにいろんな飴をくれた。その中でも一番お気に入りだったこの飴は、じいちゃんが死んじゃってからも、ストックを切らしたことはない。

 正直、あんまりはっきりした効果はわからなかった。相変わらずラップ音はするし、物は落ちるし、けど前みたいに重たい大きなものまで落ちることはなくなった。頻度も少なくなったんじゃないだろうか。「どうですか?」と訊ねる後輩に、だからちょっと盛って「めっちゃ効果あるわ」と笑顔で返した。「念のため、しばらく塩はそのままで」と言われたから、わたしは小皿を蹴っ飛ばして山を崩してしまわないよう気を付けながら生活する。

 なのにある日、帰ってみるとすべての塩の山が崩壊していた。朝見たときは絶対崩れてなかったはずなのに。バタバタ出て行くときに蹴ったんだろう、やっちゃった、と頭を抱えたとき、白い粒子のあいだから、何かが見えているのに気づいた。小指の先くらいの小さな機械は、盗聴器だった。

 まったく気づいていなかったけれど、後輩は勝手に作った合鍵で、ずいぶん前からあたしの家に出入りしていたらしい。取調室で、ガラスの飴入れを割ったのも自分だと白状した。うっかり割ってしまって、こりゃダメだって思ったら、当の本人が心霊現象を疑っていたので、それに乗じたと。自分のうかつさに、あたしは怒ることも忘れて呆けた。

 家に帰ると静かだった。ラップ音も、物が落ちる音もしなかった。電気をつけると、チェストの上にストックの飴が散らばっていた。「ほら、どれがいい?」じいちゃんはよくそうやって、机の上に飴を広げて選ばせてくれた。あたしは塩飴をつまむと口に含む。甘じょっぱさが広がって、とけて消えた。

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