愛情無情の大団円

「あたしのこと、なんにも見てないんだね」

 イルミネーションの前でそう言い捨てて、去っていく背中を今でもときどき夢に見る。最悪な気分でスマホを見ると、まだ朝の五時だった。寝直そうと思ったとき、通知に気づく。出品していたネックレスが売れていた。

 最悪のクリスマスイブから一夜明けて、俺はすぐにフリマアプリに登録した。画面に並ぶ、同じように出品されたアクセサリーたちは、渡された物なのか、それとも俺みたいに受け取ってもらえなかった物なのか。そもそも、渡す側からしてこういうところで入手するという話も聞く。アプリで買ったものを誰かに渡して、渡された誰かが出品して、また誰かが買って誰かに渡す。バトンパスみたいなその行為に、何の意味があるのか空しくなるけど、もうどうでもいい。やけっぱちな気持ちでキラキラ光る桜色のネックレスの写真を撮り、説明文を載せてアップする。周りを囲むブランドの名前にくらくらする。俺なりに必死でリサーチして、考えに考えて買ったあまり有名ではないブランドのネックレスは、一向に売れなかった。「てゆーかデザインが古くさい。趣味じゃない」彼女の言葉がフラッシュバックする。怒りにまかせて半額にして、ようやく売れた。

「先輩別れたんですよね、年始のシフト変わってくれません?」そういって彼女と初詣に行きやがった後輩の代わりに、元旦から俺はホームでじいちゃんばあちゃん相手に雑煮を配っていた。正月を意識した手作りの飾り付けに、おせちのケータリング。モチは抜きだ。お世辞にもセレブリティとは言えないこのホームは、きらびやかさの代わりに温かさで入居者さんの生活を彩っている。気を抜くと負のオーラがもれそうだから、俺は無理やりテンションを上げた。一年の計は元旦にあり。初詣も豪華なイベントもないこんなところでも、せめて気分だけは新年のめでたさを演出しようじゃないか。

 いつもの三割増しの明るさでレクを終え、それぞれを部屋に送っていく。みんな、いつもよりどことなく華やかな格好をしている。じゃあ次は、と振り返ったとき、きらりと光る桜色が目に飛び込んできた。

「孫がねえ、送ってくれたのよ」ばあちゃんはそう胸元に手を当てて、愛おしそうにネックレスを撫でる。「年末の誕生日に突然届いたの。とってもきれいでしょう?」ばあちゃんの胸には、よくよく見知ったネックレスがあった。俺が出品したやつだって確証はない。けれど、タイミングが重なりすぎた。もしかして、もしかすると。

「それ、気に入ってます?」ありえない、と思いつつ、つい車いすを押しながら聞いてしまった。

「もちろん」ばあちゃんは、しわくちゃな笑顔を向ける。「物だけじゃなくって、送ってくれようとした、その気持ちがね、うれしいの」

 彼女の気に入っている、真っ白なニットに合わせて選んだはずのネックレスは、ばあちゃんのグレーのタートルネックの胸元に、悔しくなるほどよく似合った。

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