百人百色で唯一のきみ

 朝起きたらまくらが真っ青にそまっていて、何事かと驚いた。顔を触ると鼻の下がぬれていて、鏡のなかのわたしは、両方の鼻の穴から絵の具みたいに青い鼻水を垂れ流していた。意味わかんなすぎたけど、同じくらい電車の時間がやばかったので、とりあえずティッシュをつめてマスクして家を出た。時期外れの真夏日で、ついてないなって思った。

 まあすぐ止まるでしょ、なんて甘い考えをうらぎって、青い液体は次の日も、その次の日も止まらなかった。やばいレベルの花粉症ってことで押し通していたけれど、そろそろ限界だ。わたしは無理言って半休をもらい、病院に行った。

「とりあえずこれで様子見て」と三分間の問診で出された薬は、一向に効かなかった。ついに大学病院でさじを投げられたとき、わたしは諦めることにした。幸いわたしは失敗した福笑いみたいな顔をしていたので、鼻の穴から絵の具が出ることをネタにしても許された。そのころにはもう、ちょっとした鼻先の感覚で、出てくる液体にカラーバリエーションをつけられるようになっていて、それでへたくそな絵を描いてみせると、みんな手を叩いて笑ってくれた。

 そんなわけで、普段はマスク、昼ご飯のときは洗濯ばさみで鼻をつまみながら仕事をしていたある日、同僚から彼を紹介された。彼は耳の穴から音楽が鳴り続けるらしくて、線のつながっていない大きなヘッドフォンの下から、たしかに小さく音が漏れていた。

 それが夫との出会いである。相変わらずわたしの鼻からは色づいた液体が出続けるし、彼の耳からは音が鳴り続けているけれど、案外それも悪くない。休日になると、わたしは彼の耳にマイクを入れてギターを鳴らしてセッションし、彼はわたしの鼻に筆をつっこみ絵を描く。もうすぐ生まれてくる息子が、目からビームを出すのか、口から醤油を吐くのかは分からないけれど、きっとますますにぎやかになるだろう。

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