第41話
学期末の終業式が終わり、いよいよ学院は夏休みに入ることとなる。
アレクシスは実家に帰る準備を終えると、しばらく離れることになる校内をぶらつくことにする。
「いやあ、一学期あっという間だったなあ。勉強も楽しかったし、実技も楽しかったし。最後のバーベキューも最高だったなあ」
ほとんどの生徒が実家に帰省しており、静まり返った校舎を歩きながらそんなことを一人呟いている。
「アレクシス君、探しました、です」
そんなアレクシスのもとにユリアニックが駆け寄ってきた。
「あれ? ユリア、どうかした?」
「リーゼさんが少し早めに集まってほしいと言っていた、です」
共に強力な敵と戦った経験を経たからか、ユリアニックからは最初に話しかけてきた頃のおどおどした様子はすっかりなくなっていた。
「あぁ、そうだったね。荷物を持って街の東門に集合だっけ? すぐに荷物をとって向かうからユリアは先に行ってていいよ」
「ダメ、です。寮の入り口で待っているので、早くして下さい、です」
放っておけばアレクシスは再びどこかにふらふらーっと行ってしまうだろうと考えてユリアニックは、断固として彼と一緒に向かう意思を見せる。
「はあ、僕って信用ないなあ……まあ自業自得か。わかったよ、すぐに行ってくるから待ってて」
「はい、です」
そう言うと、アレクシスは全力で走って寮に向かって行く。
ユリアニックが見送る背中はあっという間に小さくなり、彼女も軽く走って彼を追いかけた。
「時間通りですね」
それは東門で待っていたリーゼリアの言葉だった。
ユリアニックがすぐにアレクシスを見つけたおかげで、二人はリーゼリアが指定した時間に無事に到着することができた。
「いやあ、僕一人だったら遅れそうだったんだけど、ユリアが声をかけてくれてね。うん、助かったよ。リーゼを待たせるのは忍びないからね」
「えっ、いえいえ、お師匠様とユリアさんなら遅れても全然構いません!」
友達だからこそ、それぐらいの融通は利かせるというリーゼリア。
「だめ、です! 時間はキチンと守る、です!」
友達だからこそ、約束は守らないといけないと考えるユリアニック。
「よし、それじゃあ基本的には約束はしっかり守る。でも、やむを得ない場合は仕方ない。ただ、今回に限っては僕がふらふら校内を散歩していたのがよくなかった! ごめんなさい!」
そんな二人の気持ちを汲んで、自分が悪者になることで場を治めるアレクシス。
このバランスが丁度いい三人の形だった。
「わ、私こそごめんなさい!」
「ご、ごめんなさい、です!」
なぜかリーゼリアとユリアニックの二人も謝罪をする。
「ぷっ……はははっ、二人まで謝らなくていいんだよ。まあ、でも親しき仲にも礼儀ありということで気をつけていこうね」
「親しき仲にも……」
「礼儀あり、です……」
アレクシスの言葉を二人が繰り替えす。こちらの世界にはないことわざだったが、二人ともその意味を言葉から受け取り、理解していく。
「うん、いい言葉です」
「です!」
「ははっ、僕が考えたことわざじゃないんだけどね。でも、仲がいいからこそ礼儀も必要ってことだ。うん、気をつけよう」
三人の話が丸く収まったところで、おずおずと一人の男性が近づいてくる。
「あ、あの、リーゼリア様。そろそろよろしいでしょうか?」
「あっ、ミニマムさんごめんなさい! 二人に紹介します。こちらはうちに勤めているミニマムさんといって、今回の旅に協力してくれる方です」
ミニマムという名だったが、ワズワースなみに巨大な身体をしている人族の男性だった。
「ど、どうも、ミニマムです」
おずおず挨拶をする彼は身体の大きさに反して、心根の優しい、そして初めての人と話す時に緊張する人物だった。
「どうも初めまして、僕はアレクシスです。リーゼリアさんとはクラスメイトです」
「同じくクラスメイトのユリアニック、です」
互いに自己紹介を終えると、視線はリーゼリアに集まる。
「こほん、それではミニマムさんお願いします」
「わ、わかりました!」
ミニマムは合図されるとどこかに一度消えて、再び戻ってくる。
「ほ、本日はリーゼリア様に頼まれて、飛竜を準備しました」
彼は口にしているとおり、三頭の飛竜を連れて来た。彼に懐いているようで、暴れる様子も反抗する様子も見られない。
「す、すごい!」
「すごい、です!」
アレクシスもユリアニックも突如連れて来られた飛竜を見て驚いている。そして、内心でワクワクしていた。もしかして……と。
「ありがとうございます。この三頭はうちの屋敷で飼っている飛竜です。もうわかっていると思いますが、今回飛竜の使用許可をもらいましたので、三人で乗ってお師匠様の実家に行きましょう!」
「「やったー!!」」
三人が揃って笑顔になっている横で、ミニマムが申し訳なさそうな表情になっている。
「そ、その、許可は得たんですが、すぐに出発というわけにもいかなくてですね……その、乗り方のレクチャーをしたいのですが……」
水を差すようなことを口にしていると自覚しているミニマムの語尾は徐々に小さくなっていく。
「もちろんです、ミニマム先生よろしくお願します!」
「よろしく、です!」
「お願いします!」
三人が笑顔で頭を下げると、ミニマムは照れながら説明を開始する。
世界に一人だけの白紙の魔眼 ~全てを映す最強の眼~ かたなかじ @katanakaji
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