第34話


「あれだね、案外マックスも悪い人じゃなかったね」

 貴族ということでプライドは高かったが、それでも実力認めるだけの度量は持っていた。そのことが、アレクシスはどこか嬉しかった。


「最初は嫌な人だと思った、です。でも、あの人ならきっと強くなる、です」

 それはユリアニックも同様であり、自らの実力がユリアニックたちより劣っていると認められたマックスは、まだまだ伸びていくのだろうと感じていた。


「そうですね……私たちも頑張らないとですね!」

 リーゼリアは今回の戦いが刺激になっており、ますますの精進を心に誓っていた。


 そんな三人だったが、今回の一件は学院中に知られることとなり一躍注目の的となる。


「ねえ君、よかったら僕らのクラブに入らないかい?」

「それより、私たちの研究会に入りましょう!」

「いやいや、うちで一緒に修行をしていこう」r

「お前のところなんて弱小じゃないか。そんなとこより、うちのサロンに参加しなよ」

「先輩たちより、同級生の俺たちと一緒に練習しようぜ!」

 

 上級生、同級生問わず、この学院には色々なグループが存在する。

 ただ放課後残って話をするためだけの者たち。魔法について研究している者たち。魔眼の使い方を考える者たち。ただ集まって強くなりたいと訓練をしている者たちなどなど。


 そんな各グループからアレクシスを筆頭に、リーゼリアとユリアニックに声をかけてくる。


「僕は冒険者として活動しているので、そちらを優先します。なのでお誘いはありがたいですが、お断りします」

「アレク君が断るなら私も遠慮しておきます」

「わ、私もアレク君と一緒がいい、です」

 結局のところアレクシスを口説き落とすことができず、誰も彼らをグループに入れることができなかった。


「お、俺も指導してくれよ!」

「私も!」

「僕も!」

 反対にアレクシスのもとへ弟子入りに来る者もあとを絶たなかったが、これ以上人数を増やすつもりはないと断りを入れた。


 ただ、クラスメイトには常識の範囲内で簡単なアドバイスはしていた。



 そんな中、アレクシスの本分である学院での生活も一学期の大きな締めくくりを迎えていた。


「さて、ここからはパーティを組んで山に入ってもらう! 組み合わせは事前に知らせたとおりだ」

 山のふもとで担任のワズワースがBクラスの生徒を前にして、本日行われる野外演習の説明をしている。


 この学院では、一学期の締めくくりとして四人一組でパーティを組んでの山での実技試験を行っている。山にはそこそこの強さの魔物が配置されており、その魔物を倒しながら頂上にある宿泊施設を目指すというものだった。


「組み合わせは事前に教室に張り出していたとおりだ。アレクシスとリーゼリアとユリアニックは実力が頭一つ、いや二つか三つ抜きんでているため、一人少ない三人で組むことになるが……まあ、みんな承知しているな」

 他のパーティは慣例通り四人でパーティを組んでいる。


 ここまでの数か月の授業において、アレクシスはダントツの成績を残しており、リーゼリア、ユリアニックはそれに次ぐ結果を出していた。その結果も通常の一年生ではありえないようなものだった。

 そんな彼らとパーティを組んでしまうと、他のメンバーの実力を正確に測ることが難しくなるため、このような措置が取られることとなった。


「開始位置はパーティごとにバラバラになってもらう。山には魔物がいるが、授業で教えたことを活かせばお前たちの実力で十分対処できる。山から逃げ出さないように、念のため居場所を把握できる魔道具を身に着けてもらっている……絶対に外すなよ?」

 山にやってくる前に、クラス全員が腕輪を身に着けるよう指示されており、それが位置把握用の魔道具だった。


「うむ、全員装着しているな。それでは、各自所定の開始位置に移動するように!」

「「「「はい!」」」

 ワズワースの言葉に生徒たちは真剣な表情で返事をする。


 一学期の間、様々な知識と技術を叩き込まれた生徒たちは、これから行われる山での野外演習の危険度も理解している。

 そこには油断や慢心はなく、これから待ち受ける課題に対する覚悟がにじんでいた。


 この試験はひとクラスごとに行われて、今回は二番目のAクラスとなっている。

 クラスをわける最大の理由は教員や先輩生徒たちが試験の監督として各所に隠れて、生徒たちの行動を確認するためである。


 各パーティに一人、監視がついている。しかし、生徒たちはそれを知らない。


「アレクシス、お前たちが三人なのは実力を買ってのことだ、俺の期待を裏切るなよ?」

 期待を込めたまなざしで三人を見ながらワズワースが声をかけてくる。


「がんばります」

 アレクシスはシンプルに返事をする。


「ししょ、いえアレク君と一緒なら大丈夫です!」

 この数か月、リーゼリアはアレクシスの教えのもと、魔力の操作や戦い方などを修行しており、それは彼女の自信に繋がっていた。


「わ、私もがんばり、ます!」

 ユリアニックも同様に自信を深めていたため、強い決意のこもった眼差しで宣言する。


 アレクシスはできないことを責めることはなく、どうすればできるようになるのか。

 できないならば、他に向いているやり方はないか。それらを一緒に模索してくれた。

 うまくできた時にはストレートに褒めて認めてくれる。


 これまで認められてこなかったリーゼリアとユリアニックにとって、素直に褒めてくれることは衝撃的なことであり、心から尊敬できる相手だとアレクシスのことを認識していた。

 一方でアレクシスはというと、厳しくないかな? 偉そうじゃないかな? と心配して探り探りでの指導だった。


「お前たちがアレクシスのことを師匠と呼んでいるのは知っているから今更隠さんでいい。まあ、こいつは実力も知識も規格外な上に、教え方もうまい。そして、柔軟な考え方ができるから師匠をするには向いているのもわかる」

「いやあ、ははは」

 アレクシスは教師であるワズワースに褒められたため、照れた……ようにみえるが、内心ではまだまだうまく教えられておらず、二人をもっと強くすること方法はないかと考えていた。


「はい! 師匠は最高です!」

「うん、教え方上手、です!」

 そんな心を知ってか知らずか、リーゼリアとユリアニックはアレクシスのことをキラキラした眼差しで観ていた。


「今のところはいい関係みたいだから、俺も口出しはしない。しかし、それがいつまでも続くといいんだが……」

「それはどういう?」

 リーゼリアが質問しようとしたところで、空にいくつかの煙が見えた。


「おっ、そろそろ全員移動が完了したみたいだな。お前たちはここがスタート地点だ。出発の準備をするんだ」

 煙は開始位置についたという合図であり、アレクシスたちにも準備をするよう声をかける。


 各自に学院から規定の武器が配布されている。

 片手剣、槍、ナイフ、弓矢、大剣など、実際に使える武器であり、それなりのランクのものが用意されていた。その中から好きなものを選ぶというやり方になっている。


 アレクシスは片手剣を、リーゼリアは細身の片手剣、いわゆるレイピアを、ユリアニックは槍を選んでいた。


「二人とも、武器と魔法のどっちも使っていくからね」

「わかりました!」

「了解、です!」

 アレクシスの指示にリーゼリアとユリアニックが元気よく返事をする。


 この三人の信頼関係を見てワズワースは苦笑していた。教師である自分には入り込めないな、と。


「さて、全ての組が準備できたみたいだ。俺が最後の合図を上げたらスタートだ!」

 その言葉と同時にワズワースは魔道具を使って、空に煙を上げる。煙は他のものと異なり、赤く色づいており、全ての組の開始を意味していた。


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