第33話
アレクシスはナックル系の武器が置いていないため、ナイフを二つ手にしている。
対して、ミクセルは柄の長い戦斧を持つ。
「二人とも準備はいいな?」
「「はい」」
アレクシスとミクセルは揃って返事をする。
ミクセルは気合の入った表情で開始位置につく。
アレクシスも、前の二人とは違う何かを感じ取っているため、表情からは油断の色は消えている。
「それでは、第三試合……はじめ!」
開始の合図とともに先に動いたのはアレクシスだった。
――身体強化の魔眼起動――
Bクラスの生徒であるミクセルは、アレクシスの戦い方をこれまでに見たことがない。
ゆえに、ワズワースを翻弄した素早い動きで速攻で倒そうと考えていた。
「やあああ!」
「なっ!?」
しかし、アレクシスの進行方向に戦斧が現れて動きを阻害する。
アレクシスは戦斧を二つのナイフで防ぐと、その勢いを利用して後方へと飛んで距離をとる。
「ほう、アレを防ぐとはなかなかやるな」
そう呟いたのは審判を務めているワズワースだった。
彼は試験と授業の二回アレクシスと戦っている。本気を出さないようにしていたため、危険に対する察知能力も下げていた。しかし、それでも教師が翻弄されて負ける結果となってしまった。
ミクセルはそれを初手から完璧に防いでいる。
「なら、普通に攻撃させてもらおうか」
距離を詰めての攻撃ではなく、普通にナイフで斬りつける戦闘スタイルへと移行する。
「せやああ! せい! せい! やあ!」
アレクシスの双方の手に持ったナイフがミクセルに襲い掛かっていく。
右、左、右、左、フェイントを入れて右と次々に繰り出される攻撃は、生徒の中には目で追いきれない者が何人もいた。
「ふっ、ぐっ、はっ、は、速すぎるだ、ろ!」
アレクシスは最初から全力だったわけではなく、徐々に速度を上げていた。
そのため、最初のうちは余裕を持っていたミクセルは徐々に押し込まれている。
「くそっ! ”疾風の刃”」
ミクセルは斧で強く推し返してから風の魔法を使用する。彼の眼は赤い彼の髪色とは異なり、堕ちつたエメラルドグリーンの疾風の魔眼であり、風の中位魔眼だった。
風で作られた複数の刃がアレクシスに向かってくる。
――嵐の魔眼起動――
「”嵐の刃”!」
アレクシスが急遽発動したのは風の上位の魔眼。そして、使った魔法もミクセルのソレを上回る魔法だった。
「な、なんだっ、ぐあああああ!」
嵐の刃は疾風の刃を飲み込んで、そのままミクセルに襲いかかっていく。
鋭い刃が次々にミクセルの皮膚を傷つけていく。が、それはしばらくすると消える。
「ふう、はあ、いやあお前強いな。まさか、風の魔眼持ちだったとは……な」
戦斧にもたれかかってなんとか立っていたミクセルだったが、ずるずると崩れ落ちて膝をつく。
「いやいや、ミクセル君こそ強かったよ。ワズワース先生なんて僕の攻撃を防げなかったからね」
ワズワースが本気でなかったことは、アレクシスももちろんわかっていたがミクセルの強さも本物だと感じていたため称賛するために引き合いに出していた。
「ははっ、先生に勝った奴がいるって話は聞いていたけどお前だったのか、どおりで強すぎるわけだ」
倒れているミクセルにアレクシスが手を貸して、二人は握手をする。
「ミクセル、よくやった! やはり、お前は実力を隠していたんだな……わざとだな?」
レイクはミクセルのことを褒めると同時に、彼の本当の実力
彼の力であればAクラスに入ることも十分に可能だった。しかし、ミクセルは手を抜いてあえてBクラスになるよう調整していた。
「いや、はあ、まあ、色々あるんですよ……」
答えを逃がしたミクセルは苦笑いをしながら舞台下へと戻って行く。
そこに待っていたのはBクラスの面々だった。
「あー、いや、ダメでした。ははっ、すみませんでした」
笑いながらミクセルが謝ると、Bクラスの先頭にいるマックスがブスっとした顔で彼を睨みつけていた。
「おい!」
「あっ、すみませんでした……手も足もでなかったです」
マックスに対してへりくだった態度でミクセルが謝罪する。
「お前……強いんだな……力、隠していたんだな……」
マックスは俯き加減で、拳を強く握って声をかける。
クラス対抗戦が終わり、次の話に進むかと思われたが、教師二人ははマックスとミクセルのやりとりを無言で見守っていた。
「いや、それは、その……すみません」
ミクセルはあくまでマックスの取り巻きとして学院に入ってきていた。それはマックスの家に仕えている父からの命令であり、逆らうことはできなかった。
「ミクセル……お前……」
マックスが怒るのは当然のことであり、それを理解しているミクセルは目を瞑り下を向き、叱責の言葉を待っていた。
「すごいじゃないか! あれだけの力を持っていたのか! あー、わかってるうちの父さんとお前の父さんの取り決めだったんだろ? 気にするな。お前は昔から才能があったんだから、強さを見せて構わないんだ。父さんたちには俺から言っておくから!」
怒るどころか、マックスは笑顔で抱きしめて背中をバンバンと叩いていた。
「えっと、いいんですか?」
「もちろんだ! お前は俺の自慢の友達なんだ! そんなお前の才能を親同士のゴタゴタでつぶすなんてバカバカしいだろ!」
二人のやりとりを呆然と見ていたのは、マックスのことを良く知らないAクラスだけでなくBクラスの面々もだった。
「ん? なんだ?」
その視線に気づいたマックスが周囲を見渡す。
「いや、うちのリリアに突っかかってきたからもっと人のことを認められない横暴な人なのかと思っていたので……」
そして、ストレートに突っ込むアレクシス。
今度は全員がアレクシスのことをハラハラしながら見ていた。歯に衣着せぬ彼の発言に対してマックスがどんな反応をするか、気が気でなかった。
「お前……なかなか失礼なことを言うやつだな。まあ、そもそも俺がそっちに突っかかったのが悪かったんだが、にしても言い方というものがあるだろ!」
怒る風ではなく、呆れた様子のマックスの言葉に全員がツッコミを心の中で入れる。
(お前が言うな!)
「あぁ、それはごめんね。いや、でもさみんな思ってると思うよ。ミクセル君のことを認めているし、リーゼもリリアも僕も勝ったけど、見た感じこちらの実力も認めてくれているみたいだから」
「ふん、負けたものが実力に関してとやかく言える立場じゃないのはわかっている。それに、俺と戦ったリリアといったか。文字通り手も足も出ないほどに強かった。その事実は認めないといけないだろ」
アレクシスの言葉にマックスが答える。
そして、マックスはリリアに視線を向けた。
「その、なんだ、色々と悪かった。確かに俺がAクラスに上がるには実力不足だということがわかった」
「マックスさん……」
素直、とまではいかないが謝罪をしてくれたことでリリアニックの留飲も下がる。
「だがな! 今は、というだけだ! 伯爵家の子息である俺がいつまでもお前たちに劣ると思うなよ!」
しかし、この最後の負け惜しみを口にすると背を向けて入口へと向かって行った。
そのままなし崩し的に解散となる。
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