第32話
しばらくの相談ののち、双方の代表者が決まる。
「よし、それじゃあ代表者は前に出るんだ」
Bクラスから出てきたのは、例の伯爵子息とその取り巻きの二人。
Aクラスから出てきたのは、ワズワースが予想していたとおり、アレクシスとリーゼリアとユリアニックの三人だった。
「ふむ、アレクシスとリーゼリアは能力から、ユリアニックは騒動の当事者ということか」
ワズワースが選出理由を分析するが、アレクシスは首を横に振っている。
「そんな理由で選ぶわけがないじゃないですか。ユリアを選んだのはもちろん実力からですよ」
「ふむ、実力か……」
ワズワースが知るユリアニックは、座学の成績はよかったが実技はまあまあ。その程度の認識だった。アレクシスたちと仲良くなったことで何か変わったかもしれないとは思っていたが、そこまでの実力とも思っていなかった。
「ちなみに戦う順番はどうしますか? できれば、あの彼はユリアに戦わせてあげたいのですが」
アレクシスが指さしたのは伯爵子息。彼がユリアニックに難癖をつけてきたがことの始まりである。しかも、親の地位をちらつかせるという卑怯な手を使おうとしていた。
「と、いうことだが……どうだ?」
ワズワースがBクラスの代表三人と担任のレイクに問いかける。
「私は構わない。お前たちが決めるんだ」
レイクは生徒に判断を任せる。
「はんっ、生意気にも俺と戦いたいというのであれば構わん。実力の差というものを見せてやろう!」
ユリアニックの実力を侮っているため、伯爵子息は腕を組んで嘲笑しながら彼女のことを見ていた。
「ありがとうござい、ます!」
気合の入ったユリアニックは木製の槍を手に取る。
「先生、武器は模擬戦用の木製のものを使うとして、魔眼の使用はどうしますか?」
これまたアレクシスがルールの確認をする。
「それは決めてある。自由に使うといい。舞台の設定を変えて、怪我はすぐに治るようにしてある。それに、俺とレイクがいるからいざとなれば止めに入る」
その説明を聞いて、参加者の六名は頷いていた。
「なら、最初にユリアニックが戦うということでいいんだな?」
「はい、です!」
槍を手にしたユリアニックはこの時点から体内に魔力を循環させながら舞台上にあがる。
「では、こちらはマックス、お前だ」
「はい!」
マックスと呼ばれた伯爵子息は片手剣を手にして舞台にあがる。
「ユリア……見せてやって」
「はい、です」
アレクシスの言葉にユリアニックは頷くと、ゆっくり舞台に上がっていく。
やや入れ込んでいる様子のマックスに対して、ユリアニックは落ち着いているように見えた。
「審判は俺が担当する。副審判はレイクだ。模擬戦ということで多少の怪我は仕方ないものとする。さっきも言ったが武器はそれぞれが選んだ木製のものを使う。魔眼の使用も許可する。存分に力を見せてくれ」
ワズワースは二人に言っているようで、その実ユリアニックの実力に興味があった。
二人は頷くと開始位置に立ち、試合開始の合図を待つ。
「それでは、第一試合……はじめ!」
ワズワースの宣言とともに、マックスが先に動いた。
「”炎の槍”!」
火属性中位の魔眼、炎の魔眼を持っているマックスは素早く炎の槍を生み出してリリアニックに向けて射出する。
「せいっ!」
「えっ?」
しかし、それはユリアニックの槍と衝突して相殺されてしまった。
「く、くそっ! ”火の球” ”火の矢” ”炎の槍”!」
マックスは三つの魔法を連続で使用する。それも実用レベルのものでとなれば、彼が口だけでなく実力があるのだということがわかる。
「せい! せい! せいっ!」
しかし、ユリアニックは乱れる様子なく確実に相手の魔法を撃ち落としていく。
「な、なんで……」
全ての魔法が防がれてしまったことにマックスはショックを受けていた。マックスの魔眼は中位だが、入学してから魔法の訓練を独自に行っており自信を持っていた。
それが目の前の、見下していた獣人である、いやさハーフビーストであるユリアニックに防がれたことはその自信を打ち砕くに十分だった。
「下を向くな! 前を見ろ! まだ彼女は構えを解いていないぞ! 自分からケンカを売っておいて、自ら諦めるのか! お前の努力はそんなものか!」
その叱咤は担任のレイクのものだった。マックスは父親の地位を鼻にかけるところがあったが、それでも努力を続けていたのをレイクは知っていた。だからこそ、この厳しい言葉を投げかけた。
「先生……うおおおお!」
マックスは剣を握りしめてユリアニックへと向かう。
伯爵家には多くの騎士が雇われており、騎士直伝の剣術を身に着けているため魔法がダメでも次の一手を打つことができる。それを担任であるレイクはわかっていた。
声をあげて向かってくるマックスに対して、ユリアニックは槍の先端をマックスに向けて動きに対応できるようにしている。
アレクシスとリーゼリアは落ち着いて彼女の様子を見ていた。
「くらえええ!」
マックスは走った勢いのまま、上段から一撃を加えていく。
「遅い、です!」
ユリアニックはその動きが全て見えており、槍の穂先を片手剣にあててそのままからめとって弾き飛ばす。
「くそっ、うぅ……」
武器がなくても拳で殴りかかろうと考えたマックスだったが、その喉元にはユリアニックの槍が突きつけられていた。
「そこまで! ユリアニックの勝ちとする!」
誰が見ても完全勝利であることは明らかであるため、疑問の言葉は誰も口にしなかった。
マックスは圧倒的な力の差を感じて、やや呆然としている。
「マックス、胸を張れ! 結果がどうあれ、お前は良く戦った! そのことを恥じず、次へ活かすんだ!」
演習場内にレイクの大きな声が響き渡った。
その声はビリビリと空気を揺るがし、マックスの心にも強く響く。
「……はい!!」
戦う前の彼は劣等感、嫉妬心、怒りに心を支配されていたが、圧倒的な敗北によってレイクの言葉が心にしみわたっていた。
「さて、次は誰だ?」
「私です」
「え、えっと、僕が……」
ワズワースの問いかけに名乗りを上げたのはリーゼリア、そしてマックスの取り巻きの一人であるタイアンだった。
タイアンは何もすることできず、リーゼリアに一瞬のうちにやられてしまった。
それほどに彼女は友達を馬鹿にされたことを怒っていた。
「それじゃあ、最後は……」
「僕ですね」
「俺ですが……ははっ、二人ともあんなに強いんじゃ俺には勝てませんよ。降参です」
アレクシスが一歩前に出るが、Bクラス側最後の一人であるマックスの取り巻きミクセルは両手をあげてその場を動かずに降参宣言をした。
「お、おいミクセル! お前、何を言っているのかわかっているのか?」
マックスが思わず声をかけるが、ミクセルは肩を竦め悪びれる様子がない。
「はは、マックスさん。いやいや、俺だってそりゃ勝ちたいですよ。でも、見たでしょ? マックスさんを倒したあの子に、タイアンを倒したあの子。強すぎるでしょ。しかも、彼が最後ってことは恐らく一番の実力者ですよ? こっちは最初にマックスさんが出ましたけど、ほら俺は……ね? マックスさんに比べたら弱いでしょ?」
自分の実力では勝つことができないと、ミクセルは分析しそのことを飄々と言ってのけた。
「ま、まあ、確かに……お前は、そこまで戦いに向いているわけじゃないからなあ」
マックスが彼の言い分を受け入れようとする。
「ミクセル、舞台に上がれ!!」
しかし、レイクはそれを許さず強い視線で彼のことを射貫いていた。レイクはただ逃げようとする、諦めようとするミクセルを叱っているだけではなく、その視線は何か意図を持っていた。
「……はあ、わかりましたよ。はいはい、さっさとやられればいいんでしょ」
不満タラタラの様子で、ダルそうに舞台へとあがるミクセル。
その彼に対してレイクが何やら耳打ちをする。
「わかりました。ちゃんとやります。アレクシスだったな、悪いがそういうことだ。本気でやらせてもらうよ」
先ほどまでと打って変わって気合の入った表情になったミクセルがアレクシスを睨みつけていた。
「ふう、終われると思ったんだけどなあ……」
アレクシスも、やれやれといった様子で舞台に上がっていく。
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