第25話
ミスナは手の空いている職員を呼んで、数人でレイクサーペントの素材の鑑定を進めていく。
まずは、虫眼鏡のようなものを使って細かな傷を確認する。
次に素材の質をチェックしていく。サイズや個体の強さによって質も上がっていくからだ。
核に関しては特別な魔道具でチェックすることによって、レイクサーペントの魔核であることを調べる。
鑑定している間、アレクシスはギルドホールに設置されている椅子に座って待っている。
そんなアレクシスのことを他の冒険者たちは遠巻きに見ていた。
「……レイクサーペントを一人で倒したのか? だったらぜひパーティに入ってほしいもんだな」
「いや、本当に一人で倒したのか? 誰か手伝いでもいたんじゃないか?」
「とどめだけ刺したという可能性も……」
「そもそも子どもをパーティにいれるのは難しくないか?」
「持ってきた素材は本当にレイクサーペントの素材なのか?」
などなど、噂話をしているのがアレクシスの耳に届くが、そもそもどこかのパーティに所属するつもりがないため、聞き流しながら離れた場所でミスナたちが鑑定している様子をぼーっと眺めていた。
しばらくすると、ミスナがカウンターに戻って来たのを確認してアレクシスもカウンターに戻る。
「お待たせ致しました。鑑定完了しました……結論から言いまして、全てレイクサーペントの素材で間違いはなく、質もとても良いものでした。買い取り額はこちらになりますが構いませんか?」
ミスナは素材の買い取り額の内訳を紙に書いてアレクシスに提示する。
それは一般的な買取価格に少し上乗せしたものだった。
「はい、これでお願いします」
他に買い取ってくれるあてもなく、なおかつミスナが親切に対応してくれていることもあるため、アレクシスに冒険者ギルド以外の選択肢はなかった。
「ありがとうございます! それでは、報酬と買い取り金を用意しますのでお待ち下さい」
ミスナが買取金をとりにいったところで、アレクシスは先ほどまでと種類の異なる視線が自分に向いていることに気づく。
アレクシスが持ってきた素材が全てレイクサーペントのものであると確認された。
そのことはアレクシスの強さを証明する根拠となったため、誰がアレクシスをパーティに誘うかけん制しあっていた。
「アレクシスさん、お待たせしました。これが報酬になります。それと、レイクサーペントを一人で討伐できるということなので、冒険者ランクもDになりました。これはギルドマスターの承認を得ていますので安心して下さい」
ミスナは笑顔でとんでもないことをさらっと口にしながら、報酬をカウンターに乗せる。
当然のことながら、この事実はアレクシス以外の冒険者たちにも知られることとなる。
「「「「ええええええええっ!」」」
そのため驚きの声をあげたのは、アレクシスだけではなく、他の冒険者たちもだった。
「ええっ? 今日登録して、Fランクだったんですよ? それなのに、いきなりDランクですか? 二つもあがったんですか?」
誰もが思っていることをアレクシスがが口にする。
それに対するミスナの回答は大きな頷きだった。
「これは実力に対して正当な評価です。ですが、Dランクになるということは難しい依頼を受けることもできるということです。今回はレイクサーペントと遭遇して倒すことができましたが、今後もそのとおりにいくとは限りません。そこには自分自身に対する責任というものもでてくるのです。ランクが上がったことに慢心せず、今後も頑張って下さいね!」
真剣な表情でそう告げるミスナの言葉は、Dランクに上がったことを称賛するものではなく、気持ちを引き締めさせるものであった。
「……わかりました。Dランクであることはただの肩書きということですね。それに見合う冒険者になれるように邁進していきます!」
アレクシスの子どもらしからぬ言葉に、ミスナも冒険者も感心して聞いていた。
「それに……僕はまだ子どもですからね。なにより学校の授業が第一です」
茶目っ気を見せて笑ったアレクシスはそういうとクルリと振り返る。
「というわけで、Dランクになりましたが、僕は学業優先なので、お誘い頂いてもみなさんのパーティに参加することはできません。ごめんなさい」
この言葉を聞いては誰もアレクシスのことを勧誘できず、がっかりと肩を落としながら引き下がることとなる。
こうして、アレクシスの冒険者としての初日が終わりを告げた。
翌日、連休三日目をアレクシスは再び街に出て過ごしている。
今日は冒険者稼業は休みにして、昨日もらった報酬で何か装備を買おうとしていた。
最初に立ち寄ったのは何度か近くを通って気になっていた店だった。
量産品を売っているような大きな店ではなく、一見して武器屋とはわかりづらい個人経営の店である。
「なんか……こう、それっぽいよね」
そう呟くアレクシス。
彼はゲームや物語に出てくるような、いかにも職人気質といった雰囲気の武器屋が気になっていた。
ギ―ッと古めかしい音をたてて開く扉。中に入ると金属の匂いが鼻をくすぐる。
「えーっと、すみません」
個人店であるため、武器を見るにもとりあえず店主に話をしてからのほうがいいだろうと考えて、アレクシスが声をかける。
しかし、返事はない。
「すみませーん!」
今度は少し大きめの声で呼びかける。
「……なんだ、客か?」
奥から出て来たのは、頭にタオルを巻いた髭面の男性で煤で薄汚れた彼はむすっとした表情をしている。
最も特徴的なのは、アレクシスと同じくらいの背丈であることだった。
(ドワーフの人か)
地球の物語でもドワーフは鍛冶が得意な種族として描かれることが多いが、この店の店主はイメージのとおりの人物だった。
「えっと、実は冒険者をやっているんですけど、剣の手入れをお願いしたいのと、何かいい武器がないかなと思って来てみたんです」
そう言うと、アレクシスは腰から剣を取り外してカウンターごしに店主の前に出す。
「ふむ、この剣は……そうか、お前が……いや、先に確認からだな」
店主はアレクシスの剣を、正確には剣に刻印されている紋章を見て何かに気づいていた。
その確証をとるためにアレクシスに次の質問を投げかける。
「坊主、俺の名前はスパイトってんだが、お前の名前はなんていう?」
スパイトは自ら先んじて名を名乗ることで、アレクシスに名乗りやすくさせている。
「えっと、僕の名前はアレクシスと言います。家族はアレクと呼びますが……」
名前を聞いたスパイトはこれまでの仏頂面が嘘のようにニカッと笑顔になってカウンターから出てくると、アレクシスへと近づいてくる。
「っ……そうかそうか、お前さんがニコラスとルイザの息子か! いやあ、でかくなったな! 初めて会った時はまだよちよち歩きだったが……時の流れるのは早いものだ。うんうん、なかなか逞しいじゃないか。お前が学院に入学することはニコラスの手紙で知っていたんだが、まさかこんなに早く俺の店にたどり着くとはな!」
バシバシとアレクシスの身体をたたきながら笑って楽しげに語るスパイトの顔を見てアレクシスは一つ思い出す。
まだ自分が二歳の頃に父を訪ねてやってきたドワーフのことを。
その時のドワーフの名前が確かスパイトだったことを。
これだけ記憶がはっきりしているのは、転生者であり小さい頃から記憶と周囲への認知がハッキリしていたアレクシスならではのことである。
「スパイトおじさん! 覚えています! そっかあ、ここはスパイトおじさんの店だったんですね。いい感じのお店だなあって思っていたんです。お金ができたら絶対に来ようって!」
アレクシスはスパイトとの出会いを懐かしみ、思わず手をとって喜びを伝える。
「おうおう、嬉しいことを言ってくれるじゃねえか……って俺のことを覚えているのか? いや、ニコラスの手紙にもあったな。お前は普通と違ってすごい奴だって……」
事前に受け取っていたニコラスからの手紙の内容をスパイトは思い出していた。
「ってか、お前さん入学したばかりだろ? それなのに冒険者登録できたのか。しかもこの剣……魔物と戦った形跡あるな」
いつの間にか鞘から引き抜いた剣の刀身を見て、刃こぼれなどから戦いの痕跡を読み取っていた。
「普通はひととおりの基礎を学んで、二年生にならないとギルドが許可しないはずだが……やはりニコラスの子どもだけあって規格外だな」
剣とアレクシスの顔を交互に見たスパイトは、現役時代の友の姿を思い出しながら笑顔になっていた。
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