第24話
「さて、次は解体か。これは骨が折れそうだ……」
レイクサーペントはかなり強力な魔物である。
魔物としてのランクは小さいものでCランク、サイズが大きくなるとBランク以上にはなる。
それゆえに、素材もそれなりの値段で取引されていた。
薬草採集の報酬だけではたかがしれており、思わぬ形で遭遇したレイクサーペントの素材はアレクシスの大きな収入源となるため、素材を捨て置くことはできない。
「よし、やるぞ!」
覚悟を決めるたアレクシスはナイフを片手にレイクサーペントの解体を開始した。
サイズが大きくなればなるほど、労力がかる。だがそのやり方も父からしっかりと学んでいた。
そのためアレクシスは気合をいれて集中し、レイクサーペントをバラバラにしていく。
肉は雷によって焼け焦げているため、放置する。
素材として使えそうな牙、爪、骨などを丁寧にとって、それを横に並べていく。
そして、魔物の心臓ともいえる魔核も一緒に確保している。
全て終えるのに要した時間は四時間ほどで、昼をとっくに過ぎて夕方に向かって行く時間になっていた。
「ふう、こんなものか」
並べられた素材は水の魔法で綺麗に洗浄されている。
残った肉や皮膚などは開けた場所で燃やしておいた。
そのままにしておくと腐ってしまい、それを食べた動物などに影響が出てしまうことを考慮した措置である。
自分の行動の結果としてそういったことが起こってしまうのは極力避けたかった。
「よし、これで全部持てたね。街に帰ろう」
爪や牙など、カバンに入るものはそちらに、骨などの大きい素材は木に絡まっているつたで縛って背負っていく。
薬草も先に採集しており、避雷針替わりに使用した剣も回収してあるため、すぐに帰れる状態になっていた。
依頼の達成だけでなく、思わぬ素材を手に入れることができるためホクホク顔で街に戻ることにする。
――しかし、この時アレクシスは自分が犯したミスに気づいていなかった。
(ん? なんだ?)
街に到着したアレクシスはどこか雰囲気がおかしいことに気づく。
街の人々が何やらヒソヒソと噂話をしている様子が見受けられる。
それも一人や二人ではなく、アレクシスが進む道中に何人もいた。
(こ、これはもしかして……僕が見られている?)
自分が向かう先々で人々がヒソヒソ話をしており、視線が自分に向いていることに気づいたアレクシスはここにきてやっと状況を把握する。
(たぶん、この骨だよね……)
汗が頬をつたい、自分が背負っている骨が目立ちすぎていることに気づいたアレクシスは、足早に冒険者ギルドへと戻って行き、最後には建物に駆け込む形となった。
しかし、アレクシスに集まる視線はギルドの中でも続いたため、足を止めることなく受付へと向かう。
そこにいたのは冒険者登録を担当してくれたミスナだった。
「あっ、ミスナさん。よかった、依頼の報告と素材の買取をお願いしたい……」
途中まで言ったところで、ミスナが言葉をかぶせてくる。
「アレクシスさん! そのお姿はいったいどういうことなんですか? 確か薬草の採集依頼しか受けていませんよね?」
彼女の視線はアレクシスのカバンから大きくはみ出している牙や背中に背負われている骨に向いていた。
「いや、まあ、その、色々ありまして……話せば長いのですが、まずは受けていた依頼の薬草を確認してもらえますか?」
「わ、わかりました」
アレクシスに言われて、本来の業務を遂行することにする。
「それじゃあ、これをお願いします」
「はい……ええっ!? こ、これ全部ですか?」
既にアレクシスが背負っている素材で驚いているミスナだったが、受付カウンターに並べられた薬草の数を確認して再度驚くこととなる。
薬草採集の達成数は五束である。
それに対して、アレクシスがカウンターに並べた薬草はその六倍の三十束だった。
薬草採集といえば駆け出しの冒険者がやるような依頼で、最低数だけ採集してそれで終わりにする者が多い。
「はい、全部買取お願いします」
「しょ、承知しました。これは……大丈夫。これも、問題なし……」
うろたえながらもミスナは薬草の品質を確認していく。
そして、一束、二束、三束と順番に確認していくうちに一つのことに気づく。
全て、痛みなどはなく、必要な部分を丁寧に採集されている。
冒険者の中には根元から適当に引き抜いて、これまた適当にカバンに突っ込んでよれよれにしてしまう者も少なくなかった。
ゆえに、ミスナは目を輝かせていた。
──久しぶりの大当たり冒険者なのではないか、と。思わず喜びから、確認の手も早まっていく。
「はい、確認終了です。全て高品質のものですので、依頼達成に加えて、満額での買い取り、それにこれだけ良いものなので少し上乗せさせていただきます! カードの提示をお願いしても良いですか?」
「あっ、すみません。忘れていました……はい、お願いします」
カードの提出を忘れていたアレクシスは慌てて冒険者ギルドカードを提出する。
しかし、もう一つ忘れていることがあった。
「えっ?」
提出されたカード見て、ミスナは動きを止め、そしてカードをもう一度確認し直す。
「どうかしましたか……あっ」
そこまで言って、アレクシスは思い出す。
ミスナの説明にもあったが流して聞いていた、両親から教えられていた冒険者ギルドカードについてのことだ。
そう、このカードには討伐した魔物のデータが記録されるのだ。
「レ、レイクサーペントを倒したんですか!?」
驚きのあまり思わず大きな声を出すミスナの声に周囲の冒険者たちがざわつきだす。
アレクシスが登録したばかりの駆け出しの冒険者であることは、ギルドで見ていた者は知っており、既に噂にもなっていた。
冒険者を始めたばかりのFランクの、しかも入学したばかりの子供が、仲間もおらずソロで依頼を受けている。そんな彼がレイクサーペントを倒したともなればざわつくのも当然のことである。
「あ、あはは、ま、まあそういうことなんですが……買い取ってもらえますか?」
周囲に知れ渡ってしまったため、アレクシスは乾いた笑いを浮かべながら、買い取りの確認をする。
「えっ? は、はい、それは大丈夫ですが、ど、どのあたりで出くわしたんですか? どうやって倒したんですか? その、ずっと気になっていたんですが、背中に背負っている骨はもしかして?」
アレクシスの質問に答えつつも、それを上回る数の質問をミスナが投げかけてくる。
矢継ぎ早に飛んでくるミスナの質問に、少し気圧されながらもアレクシスは一つずつ答えていく。。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。まず背中に背負っている骨はレイクサーペントのものです、大丈夫かなあと思っていたんですが、ちょっと目立つみたいでここに来るまでの間少し注目されてしまいました」
アレクシスは失敗したと苦笑しながら話す。
(いや、それで大丈夫なわけないだろ! 目立ちすぎだ!)
子どものアレクシスがこれだけの謎の骨を背負っていたら、それは誰もが疑問に思って注目するのは当然であるため、心の中で周囲の冒険者たちがツッコミをいれていた。
「それで、出くわしたのは西の森の湖のほとりです。お弁当を食べているのを邪魔されてビックリしました」
日常の一シーンを邪魔されたくらいの気安さで説明するアレクシスに対して、どこから突っ込んでいいのかわからず、頬を引くつかせたミスナは相槌だけうって話の続きを聞く。
「水の玉をバンバン吐き出してきたんですけど、なんとか避けながら湖から少しずつ離れていって、そこで剣やらなんやらで倒しました」
このあたり、倒し方を明確にしないで濁したまま説明する。
アレクシスの魔眼がなんであるかは家族と学院関係以外には知られていない。
さらに、白紙の魔眼の本当の力を知っているのは限られた一部だけであるため、これ以上詳細に説明するつもりはなかった。
「な、なるほど……その剣やらなんやらの部分が気にはなりますが、さすがに冒険者に手の内を晒すことを強要できませんから説明は十分です。ありがとうございます」
アレクシスはできる範囲で説明してくれたため、ミスナもそれ以上は追及せずにここでひくことにする。
「まずは依頼完了の手続きを先に済ませておきましょう……はい、これで薬草採集は大丈夫です。あとは、買い取ってほしいという素材ですが……」
「はい、えっとこの骨と爪と牙と……魔核もお願いします」
アレクシスは背負っていた骨をカウンターの上におろして、残りの素材もカバンから取り出して並べていく。
「それでは、鑑定しますので少々お時間を下さい」
さすがに薬草とは異なり、しっかりと鑑定する必要があるため、受け取った素材を奥のテーブルへと移動して他の職員とともに鑑定をしていく。
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