第7話 討伐令④
「セレーネ!クレト!ただいまー!五体満足だよ!」
私が嬉しげに駆け寄るとセレーネは一瞬だけほっとしたような表情を見せ、すぐにいつもの無表情に戻る。
「流石にそうでないと困ります。私が心配したのは掠り傷とかです。」
「んまー、お嬢ならその程度の怪我しか選択肢ないしな!」
二人とも私を人類最強かなんかと思ってるんじゃないの…??そんな軽い感じ??
けれど二人はどんな時でも別れる瞬間には気を付けるよう声をかける。どれだけ強いと分かっていても心配はしているようだ。
「さっ!帰ろ!」
私が笑いながら言うと二人もふっと頬を緩めた。
「はいっ」
**********
「おはようございます。」
私は素知らぬ顔で朝食の席に着く。昨日の晩の騒動はお父様はまだ知らないと思う。お姉さまはいなかった。お母さまが亡くなって以降、こういう事も増えた。まあ、昨日は舞踏会だったから疲れているのだろう。しかし、最早どうでもいい。私はもう空腹だった。
「アーリア、昨日はどうだった。」
お父様は表情が乏しい方だ。一見したら問い詰められている現場に見えるかもしれないがそうでもない。
「どうだった…とは?」
私はあえてツンと返した。
「その…シルヴェスター皇子と踊っただろう?どうだったのだ?」
「別に…これと言ったことは…」
「そうか。」
お父様はしょん…として食事に意識を戻した。このお父様の微妙な変化は長年一緒に過ごしてようやく分かる。お父様の感情の変化は読み取りづらいが、これが分かると感情豊かなお父様がとても可愛く見えるのだ…というのは本人にも内緒だ。
「シルヴェスター様がどうかなさいましたか?」
「いや…何でもない。」
私が皇子を名前呼びした事に少し反応したがお父様は頑として要件を教えてくれない。私は少しむっとした。
「そうですか。」
「…」
お父様は居心地が悪そうにソワソワしだす。
「お父様、何か要件があるのならハッキリと言ってください。」
何か言いたげな空気を出すお父様にバッサリと要件を聞くことにした。モジモジされてても何も始まらない。先程の姿勢に少し怒っている私はお父様の意をいちいち汲みはしない。
「皇子と…茶をしないか…?」
「は…?」
何か政略的な問題が関係することだろうかと思っていたがお茶だとは思わなかったため間抜けな声が漏れる。
お茶…?何…?政略結婚…?でもうちの長女はお姉さまでしょう?シルヴェスター様は王位継承権がないから…公爵家に婿入りってこと…?それにしても…
「いや…難しく考えなくていいんだ。キャロルにも事情がある。キャロルは婚約するにしても今はまだ早い。お前も今すぐしろというわけでは無いが、そろそろ動かなければならないだろう。」
「そう…ですか…。」
私はお父様の言葉を頭でリピートしながら朝食をお腹いっぱい食べた。
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