闇の公女は上を向く。∼謎の身体能力チートと聖属魔法でらしく生きたい∼
SITORA
第1話 知らんがな。
「おい!あそこを見ろ!今宵もおいで下さった!!」
「あぁ!我らの女神だ!」
屈強な男達が次々に月夜を見上げた。その先にいるのはマントで頭を覆い、歪な形をした仮面を着けた女性だ。両目の周りを隠している仮面はそのまま左頬にも伸びていて顔の認識がつかない。大量の魔物の大群を前にして悠然と立ちはだかるその姿は救い主のように見えた。
「あれが…月夜の女神…。我が王国の救いの主…」
皆がそう唱える中で銀髪の美しい少年がぼそりと呟いた。その声はどよめきの中でも消えることなく残った。
***************
ナタリタ帝国 皇城
「またも月夜の女神が現れたそうだな。知っていたか?アーリア」
「ええ、そのようですね。」
噂をする貴族たちを横目にお父様が私に話しかけた。私はそれに答えると睨んでいる姉に目をやる。今日は王城で行われる舞踏会の日だ。私たちは、王族の方々が入ってくるまで時間があるので広間からすぐに出られるテラスのソファーに座っていた。
私はナタリタ帝国の公女で、オルコット公爵家の次女だ。名前はアーリア・イヴ・オルコットという。父の名前は、エイベル・バート・オルコットで姉の名は、キャロル・ミア・オルコットである。私の姉は世間体ばかり気にする人で私を比較のだしに使っては貶め、勝った気になって満足するような低俗な人だ。家族だから、という感情はもはや枯渇した。今は軽蔑と言う感情しかない。姉が周りに吹き込んだ噂のせいで私は姉妹の残りカスとされ、オルコット公爵家の出来損ないと揶揄されるときもある。
「キャロル、アーリア、そろそろ中央へ行こうか。」
「はい。」「はい。」
お父様の言葉に返事をして席を立つ。お姉さまはワンテンポ遅れて立つ私を見て、ふんと鼻で笑った。相変わらずだ。キラキラとした金髪を軽く払い、ばかにした目つきでニヤニヤと見つめてくる。何とも下品な視線だ。だが、私は顔色一つ変えず問う。
「私の顔がどうかなさいましたか?」
お姉さまは、怖い顔をして私から顔をそむけた。あのニヤニヤとした薄気味悪い笑い方を考えればこの後のことが憂鬱になった。今日は何をしてくれるのか。
公爵筆頭を担い、宰相も務めるお父様と隣国の元王女のお母様の間に出来た二人娘の次女が私だ。お父様はよくできた方でしっかりとしたいい人だ。どんな悪評を持つ私でも大切にしてくれる。お母さまも穏やかな方だった。しかし、本当は誇るべき家名に泥を塗っているのが姉であり、私だ。不名誉な噂を持つ私は家名を傷つけていることになる。姉は知らないがその噂の出所が姉であることをお父様は知っている。お父様の前で意気揚々とオルコットの恥などと断言するその姿はとても醜かった。それでもお父様は私を愛してくれた。お父様は「お前なら大丈夫だ。その名を払拭する日が来る。お前ならと、この父が信頼を置くのだから間違いはない。大丈夫だ。」と優しい言葉をかけてくださった。
—大丈夫、私は表でどんなことを言われてもやることがある。私の役目は裏から大切な人たちを支えることだ。
私は深く息を吸うと前を見据えた。横でお姉さまの頭に付けた大きな宝石たちがジャラジャラうるさいが精神統一は大切だ。
ラッパの音が鳴り響き、私たちは静かに頭を垂れた。
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