17.叔母さんもヘルプに
朝食を簡単に済ませて一階へ下りていくと、誰もいないエントランスで、拭き掃除をしている叔母さんの姿が目に入った。
「オーナー、おはようございます」
私が声をかけると、叔母さんは振り向きざまに私の顔を覗きこんだ。
「おはよ~、少し疲れてそうだけど大丈夫?」
「はい、朝まで熟睡したので大丈夫です」
叔母さんから朝の澄んだ空気に似つかわしくない香水の匂いがする。
今日は叔母さんが私の代わりにコンシェルジュを務めてくれるので、張り切っているのかもしれない。
それにしても、カフェのオープンまでには、かなり時間がある。
「オーナー、カフェは13時からですけど……」
「もしかしてオープンの時間まで、こっちの仕事をするつもりでいた?」
私がおずおずと頷くと、
「もぉ~、そんなんじゃ、環ちゃんもダウンするわよ。今日はカフェのオープンまで、片桐さんと厨房で待機しててちょうだい」
と呆れ顔で叔母さんが言う。
「分かりました……お気遣いありがとうございます。それではヘルプに行ってきます」
年末で叔母さんも、かなり疲労が溜まっているはずなのに……
叔母さんの優しさとバイタリティに、いつも私は助けられていた。
「有名な画家の展覧会ですし、クリスマス前だから混雑してそうですよね」
私は不意に本音を漏らしてしまった。
美術展に行くことは私も好きだけど、あの混雑ぶりに、いつも辟易していたからだ。
夏の炎天下の中、待ち時間が3時間と出ていた時は、列に並ぶ気さえ起きなかった。
「そうか、参りましたね……カイロも持って行きましょうか?」
長谷川様が心許なげに田村様を見返った。
私は自分の余計な一言で長谷川様を不安にさせてしまったことに、罪悪感を感じた。
「そうですね、持って行きましょう。お話ししながら待っていれば、あっという間ですよ」
と、田村様が労わるように言うと、長谷川様は照れ笑いを浮かべた。
待ち時間も彼にとっては、彼女のことをもっと知ることができる至福の時間……
(長谷川様は列に並んでいる間、田村様にどんな話をするんだろう)
田村様の想い人が誰であろうと、今日一日、長谷川様が楽しいひと時を過ごせるように私は願っていた。
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