第二章:夜のしじまのカーテンコール
1.SNSが苦手です
SNS、実はあまり好きじゃない。
私、
ひょんなことから、街はずれのアパルトマン lumière(ルミエール)でコンシェルジュとして働き始めた。
叔母さんの勧めと金銭的な理由で急遽引き受けたものの、山ほどある管理人兼コンシェルジュ業務に、あたふたとする毎日だ。
やっとの思いで一ヶ月を乗り切ったものの、まだまだ叔母さんの望む結果は出せておらず、凄腕シェフの片桐さんを含め三人で経営会議を開く事になった。
「ルミエール、何とか無事スタートから二ヶ月目を迎えられたけど、まだまだ認知度も入居者数も伸びてません。二人から何か提案ある?」
「うーん。私は手一杯で、体力的な営業活動は厳しそうです」
「僕の方は、食事時間外に余裕が少しできそうなので、空いた時間にスイーツを製作して販売してみたらどうかと思っています」
「そうね。当初から入居者の方が留守がちな日中はカフェをするのもいいかもと話していたものね」
「片桐さんのスイーツなら、お持ち帰り用でも人気が出そうですね」
「ありがとうございます。早速、何種類か考えて試作してみます」
「そうね。あとは広報業務だけど……」
「じゃあ、私がPR方法は考えてみます」
何もまともな提案ができなかった私は、他の業務に忙しい二人に代わり、広報を担当する事にした。
ルミエール近辺はカフェや雑貨屋などが多く、注目度は高い地域なのだが、そちらから少し離れている為、ひっそり佇んでいるという感じなのだ。
その為、上手くPRをしないと賃貸業以外の収益が見込めなくなってしまう。
現在、入居中は二部屋で、石川様と長谷川様。
二人は今年の四月から一年間の利用を予定している。
石川様は60代女性の一人暮らし。時々、お孫さんの話を楽しそうにされる、とても穏やかで優しい方。
長谷川様は50代の会社員男性の一人暮らし。生涯独身貴族を貫くと決めているそう。趣味等にはお金は糸目なく掛けるのがポリシーらしく、新しいデザイナーズマンションを購入予定との事。
こちらにはそのマンションが完成するまで居住予定だ。
私が広報を引き受けてしまったものの、良い方法が思いつかない。
叔母さんが名案とばかりに仰々しく手を叩く。
「環ちゃん、SNSがあるじゃない!」
「は、はい。ホームページはもうありますけど……」
「それとは別なの! 今の時代は【映え】なのよ」
「はぁ」
叔母さんは、私が一番閃いて欲しくなかったワードを口にする。
なんだか『来る!』と予期できるホラー映画を観ている気分だ。
片桐さんは私の反応で乗り気でない事を察してくれた様だが、叔母さんは私の反応をまるで無視し、もう決定事項としてしまったらしい。
私は渋々、写真を投稿するタイプ「
SNSは、できればもう二度と、やりたくない。
ろくな思い出がないからだ。
それに毎日毎日アップするような刺激的な事なんて、そうそう起こりもしない。
他のユーザーは、コピーライターにでもなれるんじゃないかと思うくらい気の利いた面白い事をぽんぽん呟く。
つまり、私には特筆すべき個性もなく、取り立てて主張したいこともない為、どちらのSNSにも向いていなかったのだ。
どこか時代に取り残された感を、早くも20代後半で感じてしまう私に叔母さんは難題を突き付けた訳だ。
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