5.彼女の目的は

 それから私は一人、エントランスで外を眺めながら彼女の事を考えていた。

 彼女の部屋に広がっていたパンフレット。

 恐らくあれは大学の入学案内用のものだ。

 近隣の駅には幾つか大学はあるが……

 ルミエールから一番近い徒歩圏内、地方の学生でも受験することが多い大学と言えば、


 ――双葉美術大学。


 もしかしたら、このアパルトマンに来る前に大学に見学に行っていたのかもしれない……

 その時に何か彼女にあったのかも。


 私は、とりあえず食堂へ向かった。

 今日、夕食に出される予定だったローストビーフを冷蔵庫に保管しようとする片桐さんに叫ぶ。


「片桐さん、そのローストビーフ待って!」


「はい?」


 片桐さんは急に呼び止められて、あたふたとしている。

 急に大きな声を出したので息が苦しい。

「……あ、あの。ローストビーフって2人分あります?」


「ええ、予備としても用意してありましたので大丈夫ですが」


「何か食べやすいように加工できたりしますか」


「……うーん。ちょっと待っててください」


 そう言うと片桐さんは物凄い手際の良さで、あっという間にローストビーフのサンドイッチとミキサーで作ったブルーベリーのスムージーを手渡してくれた。


「ありがとうございます!美味しそう」


「早く持って行ってあげてください」


 まだ事情も説明してないけれど、片桐さんは察してくれていたようだ。

 私はトレイを持ちながら、彼に向け小さくOKサインを送ると、彼女の部屋へ急いだ。


 彼女の部屋、201号室のドアをノックする。


 ――反応がない。

 部屋の前にラップをしたまま、トレイごと置いて行こうかと思った矢先、引きずる様にドアがゆっくりと開く。


「……はい。まだ何か」


 彼女越しに見えた部屋の時計は、もう19時を指していた。


「あの……遠藤様、ご夕食はどうなされました?」


「さっきお菓子食べたので……いらないって夕方に言いましたよね」


 彼女は少し震えるような声で言い、私を睨みつける。


 ――ここで引き下がるわけにはいかない。


 例え、二週間位の滞在でも親御さんからお預かりした大切なお嬢さんだ。

 こんなに不安定な人を、このまま放ってはおけない。


「良かったら、お召し上がりになりませんか?」


 片桐さんに作ってもらったローストビーフのサンドイッチとブルーベリーのスムージーを差し出す。

 彼女は少し躊躇いながらも手を伸ばす。


「あ、ありがとうございます。でも私、食堂には行きませんよ」


 やはり食堂では食事をしたくないようだ。


「はい。本来は食堂で食べて頂くんですけど、こうして軽食にして貰ったので、このお部屋で今晩は食べてみませんか?」


「……」


 彼女はとうとう俯いてしまった。

 私は、もう打つ手がないと思い諦めかけたところ、

 彼女が小刻みに震えている事に気が付いた。


 ――泣いている。



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