3.お部屋に御案内して

――数分後。


少し彼女が落ち着いたようなので旅行鞄を持ち、滞在する部屋に案内した。

彼女は階段周りの調度品などをきょろきょろと興味深そうに眺め、一足遅れて部屋に入って来た。


「どうぞ、こちらが滞在して頂くお部屋になります」


「…………」


「いかがですか?」


「…………」


彼女は相変わらず、すぐに言葉が出てこない様子で、眼鏡のずれを指で直しながら部屋を見渡す。


「す、素敵です! こんなお部屋に泊まれるなんて……」


彼女は、目を輝かせながら、やっと視線を合わせてくれる。


「このお部屋は、白を基調としたインテリアでコーディネートしております」


オールドローズカラーで纏められたリネンが並び、フレームに装飾が施されたセミダブルベット、猫足の鏡台やローテーブル、アンティークのラブソファ等、白で統一された、私と叔母さんの拘りが詰まった自慢のインテリアだ。


「うわっ。マンガでよく見るやつ!」


女子高生らしい反応で可愛いなと思い、私は思わず顔を覗きこんでしまう。

すると彼女は慌てて視線を反らし、また大き目の眼鏡が鼻の先までずり落ちる。


「遠藤様、お昼はもうお召し上がりになりました?」


「い、いえ。まだです」


「よろしければ昼食をご用意していましたので、食堂で召し上がりませんか?」


「あ、あの……。部屋で落ち着きたいので結構です」


彼女はそう言うと、さっきまでの可愛らしい言動とは打って変わり

『一人にして』とでも言いたげな表情でドアを閉めた。


あれだけ走って来たんだから疲れてるよね……


彼女の一変した態度が少し気になったけれど、あまり干渉しすぎることも気が引けた為、その場を離れ一階へと戻った。


従業員の控室を覗くと、駅前から帰ってきた叔母さんと片桐さんが談笑していた。


「環ちゃ~ん。遠藤様、無事で良かったわね~」


「はい。今、お部屋で寛いでいらっしゃいます。昼食はお疲れで不要との事です」


「あら、残念。じゃあ、二人で少し食堂で休んできて」


「えっ。でも……」


「初めから無理は禁物。隙間時間に休憩を取る事も大切よ」


叔母さんは急かすように私と片桐さんの背中を押す。


お言葉に甘え食堂にやって来ると、ほのかにいい匂いが漂っている。

私がテーブルに付くと、片桐さんが厨房から特製のまかないを持ってきてくれた。

綺麗な色の野菜が沢山入ったピラフにコンソメスープとヨーグルトムース。

サッと作られたはずなのに、どれも絶品。

とても残った食材などで作ったとは思えない出来栄えだ。

ゆっくり味わいたいけれど、急いで食べ終える。


「片桐さん、先程は、ありがとうございました」


「いいえ。お客様、無事で良かったです」


「はい。でも……ちょっと気になる事があって」


「何かあったんですか?」


「私の思い過ごしかもしれないんですけど」


「少しでも気になることは共有しておいた方がいいですよ」


「……はい」


私は遠藤様を昼食に誘った後に感じた違和感を、片桐さんに説明した。

元々、人見知りそうではあるが部屋に案内した直後は嬉しそうにしていた事、昼食を食堂で取らないかと提案したところ、急に心を閉ざしたように見えた事。

片桐さんは、黙って私の不安を聞いてくれていた。



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