第一章 : 旅立ちのレッドカーペット
1.ルミエールオープン初日、最初のお客様は……
いよいよアパルトマン lumière(ルミエール)は、オープン初日を迎えた。
lumière(ルミエール)とはフランス語で『明かり』や『光』を意味する。
都会の街はずれで、入居者や訪れた人の疲れをそっと癒せるような存在を目指して、私、叔母さん、片桐さんで話し合い決定した名だ。
入居者、第一号のお客様は今日の午前11時に到着予定。
この日の為に叔母さんが用意してくれた、アイボリーのウール地にダークレッドのラインがアクセントになっている、落ち着いた品のいいデザインのテーラードジャケットを羽織る。
スカートとシャツはすでに自分で持っていたお気に入りの物を、その日の気分でコーディネートすることにした。
lumière(ルミエール)はホテルではない為、あまり堅苦しく感じてしまいそうな服装は避けようという事で、叔母さんと意見が一致した。
片桐さんは調理中は定番の白のコックコート、それ以外の時間は特に制服というものはなく、普段から清潔感のあるコーディネートなので、問題なしと叔母さんが判断した。
私は軽く朝食を終えて、エントランス部分の掃除などをしながら、入居者の到着を待つことにした。
10時30分過ぎ、叔母さんが初日という事で花束を手に、様子を見に来てくれた。
「環ちゃん、おはよう。片桐さんも準備万端ね」
「おはようございます。わ、私大丈夫でしょうか」
「もう逃げも隠れもできないわよ……でも大丈夫。何かあれば、片桐さんでも、私にでも合間を見て連絡ちょうだい」
「はい。ありがとうございます。片桐さんも、よろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします。あんまり気負わずね」
「じゃあ、私は裏で控えてるから後はよろしくね」
叔母さんは、しなやかに歩きながら、背を向けたまま、ひらひらと手を振って従業員の控室に行ってしまった。
私は頂いた花束を花瓶に活けたり、小さな声で発生練習をしてみたり、エントランスを右往左往する。
――ところが約束の午前11時を過ぎても入居者は現れない。
その後、10分、20分と時間が経ち、正午になっても姿を見せなかった。
心配になり、従業員室にいるテレビを見ていた叔母さんに報告に向かう。
「ちょっと心配ね。昼食不要の連絡もなかったし、ウェルカムランチでもしようかと思ってたんだけど」
叔母さんから入居者の資料を改めて見せて貰う。
もう何度も昨日確認した資料なのに、不安で確認せずにはいられない。
学生証のコピーで顔は不鮮明だが、まだあどけなさの残る大人しそうなロングヘアの女の子だ。
このルミエールには、春休みを利用して一人で滞在したいとのこと。
親御さんが一人で都内のホテルに連泊させるのは心配ということで、こちらの滞在を決めてくれたらしい。
――卒業旅行とかならあり得そうだけど、彼女四月から三年生だし、女子高生一人でってどういう事なんだろう。
少し疑問を感じながらも、私は自分の定位置に戻って彼女を待つことにした。
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