私、コンシェルジュになります!
「こんにちは~。環ちゃん? 元気にしてた?」
「あっ。
思わず『体だけは元気です』という言葉を飲み込んだ。
「環ちゃん、今、お仕事何してるの?」
「あ、えっ。その」
「前は派遣社員してるって言ってなかった?」
「……あ、実は契約が終わってしまって」
「え、無職ってこと?」
(――少しは遠慮ってものがないの!叔母さんは)
昔から明子叔母さんは、人柄は良いのだが、ちょっと無神経なところがある。
「ええ、そうなんです。面接まではどうにかこぎつけるんですけどね」
軽く嘘をついてしまう。書類選考で不採用になってしまうとは、この先の質問攻めを見越すと決して言えなかった。
「うそ~。環ちゃん、顔だってそこそこ可愛いのにね。見る目ないんだね。その会社のやつら達も」
――そこそこは余計だ。しかも外見だけが不採用の要因じゃないこと、私だって分かってるから。
「だったら余計に……いい話があるのよ、環ちゃん」
なんだか怪しげな何かを買わされてしまいそうなニュアンスで、叔母さんが切り出す。
「こんにちは~。環ちゃん? 元気にしてた?」
「あっ。
思わず『体だけは元気です』という言葉を飲み込んだ。
「環ちゃん、今、お仕事何してるの?」
「あ、えっ。その」
「前は派遣社員してるって言ってなかった?」
「……あ、実は契約が終わってしまって」
「え、無職ってこと?」
(少しは遠慮ってものがないの! 叔母さんは)
昔から明子叔母さんは、人柄は良いのだが、ちょっと無神経なところがある。
「ええ、そうなんです。面接まではどうにかこぎつけるんですけどね」
軽く嘘をついてしまう。書類選考で不採用になってしまうとは、この先の質問攻めを見越すと決して言えなかった。
「うそ~。環ちゃん、顔だってそこそこ可愛いのにね。見る目ないんだね。その会社のやつら達も」
(――そこそこは余計だ。しかも外見だけが不採用の要因じゃないこと、私だって分かってるから)
「だったら余計に……いい話があるのよ、環ちゃん」
なんだか怪しげな何かを買わされてしまいそうなニュアンスで、叔母さんが切り出す。
「……分かりました。じゃあ、期間限定でもいいですか。私もこの先どうなるか分からないし、代わりの方が見つかるまでって事で」
「OK!契約成立ね。じゃあ、早速今度の日曜日に細かい打ち合わせも兼ねて三人で会いましょうか」
「3人?」
「やぁね、料理人。シェフね。これがまたイケメンなの。楽しみにしててね」
「ええっ⁉ シェフ、男性なんですか?」
「問題ある?まさか一つ屋根の下、男女がなんて古臭いこと言わないでしょうね。」
……おばさん、神通力でもあるんだろうか。
「え、でも」
「ご心配なく、各部屋、防犯体制はバッチリだから。まぁ男女の間には、何が起こるか分からないけどね」
「もう、からかうのやめてください!」
結局、叔母さんに上手く丸め込まれ、次の日曜日に駅ビル入口付近にある小さな噴水広場の前で待ち合わせをして、それから打ち合わせすることとなった。
叔母さんとの電話を終え、数分のうちにとんでもなく大きな事を決めてしまった気がして、急に不安に襲われる。
――ええい!引き受けてしまったものは仕方がない。話を聞いて無理だと感じたら、叔母さんに謝ってお断りしよう。
開き直るとお腹が空いてきて、何か甘いものが食べたくなってきた。
今日のお昼はパンケーキでも作ろう。
少しでも展望が開けると、急に他の事に対しても活力が湧いてくるから不思議だ。
そうだ、日曜日、何着ていこう……
鼻歌を口ずさみながら、冷蔵庫のタマゴとブルーベリージャムを取り出す。
――少し運が向いてきたみたいだ。
道すがら、私と片桐さんは一方的に叔母さんのマシンガントークを浴びせられ、ひたすら相槌を打ちながら、ツアーガイドさんに引率されているような体で街を歩いていてた。
この辺りは都内でも自然がまだ多く残されていて、最近はカフェや雑貨店なども次々に建ち並び、居住区やデートスポットとしても人気のエリアとなっているようだ。
駅から15分位歩いた、街はずれのそこだけ違う空気を纏っているかのように見える、緑が生い茂るスポットにその建物はあった。
都内にこんな場所が存在していたのかと思うほどの異世界感・・・・・・
蔦が絡まる白いモルタル壁、日の光が十分に取り込めそうな出窓、装飾は繊細でありながら重厚さも窺える鉄格子の門……
全てが洋館の演出に一役買っている。
――こんな建物、映画でしか見たことない!
私は言葉を失い、ただただ洋館を眺めていた。
「…………」
「どぉ?片桐さんは実は一度私と下見してるんだけど、環ちゃん、ご感想は?」
「……あ、あの。」
「ん?」
「凄く素敵です!あの、私ここに住めるんですか?」
「もちろんよ。貴方はここの管理人兼コンシェルジュになるのよ」
先週までの不安は心地良い緑の風に乗って、どこかへ連れ去られた。
それほどまでに、この異世界の雰囲気を放つ不思議な洋館は私を魅了した。
「わっ、私、このアパルトマンの管理人になります!」
その時、片桐さんがどんな顔していたかは思い出せない。
静かに見守っていたような気もするし、私の声に圧倒され、微かに笑っているようにも見えた。
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