42章ー3




簡単な測定を終えた後、向かい合って腰掛け、問診となる。

様々な数値はフールルが人間の女性と想定するならば、すこぶる健康なのだと示しているそうだ。執事を名乗る男はほっと胸をなで下ろしていた。

当然だという顔をして、フールルの後ろには白の子と呼ばれる男が控えている。じとっとした目で魔族の少年を睨みながら。


「紅茶を飲んでいるね。取り敢えず飲食は出来る、と」

「どうかしら」

「ふむ? 紅茶摂取、すなわち飲食の飲は可能。なら食べ物を食べたりは?」

「覚えてないの」

「この封印状態より以前に何かを食べた記憶も無いの?」

「昔過ぎて覚えてないわ」

「なら今から何か食べてみる?」

「……食べるって、よく分からないわ。私が食べても大丈夫かしら」


フールルは疑問を乗せて執事を名乗る男を振り仰いだ。

男は視線を受け、表情を和らげて答える。


「貴女というたった一つの尊き命に、他の命という異物、不純物が混じる事は推奨できかねますね」

「だそうよ。止めておくわね」

「それは封印に関わる理由からなの?」

「私がお前に回答する理(ことわり)はない」

「けちー。ていうかフールルは食べなくても平気なの? ボク達魔族でさえ他の命を摂取する必要があるのにさ。餓死しないの?」

「しないみたいね」

「いちいち食事の心配しなくて良いのいいなー。ボクも100年くらいぶっ続けで研究とかしてみたいー」

「私も100年は無理よ。だって眠っちゃうもの。でも食事って、不便そうね。お話の続きが気になっているのに、空腹で中断だなんて嫌だわ」

「そうなんだよ~。ボクも食べなくて良い体になりたーい!」

「なれると良いわね」

「うん。その為にも君の生態が知りたいのさ。と言うわけでボクの診察に協力よろしくぅ!」


それからフールルは魔族の少年からされる様々な質問に答えていった。少年は興味深そうに何度も頷き、その回答を記録に取っていった。


「食べなくても餓死しない。老化しないから老衰もしない。若い姿のまま内面上の理由? とかでの老衰もしないみたいだ。ならば外的要因……例えば肉体に致命傷を加えられたら死ぬかな? だけど」

「それは私が許さない」

「だよね。ならばフールルはどうして死なないんだろう? どうして生きているんだろう? 本当に、興味深い」


興味津々、好奇心に満ち満ちた視線にフールルは暫し目を伏せる。

本当に、フールルは何故、生きているのか。

生きたい人こそ生きているべきだと思う。



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