42章ー2



魔族の少年はぽわりと虚空に煌々たる明かりを生じさせた。

光あるところ影あり、とばかりに濃くなった少年の影。

魔族の少年はぺとんと床にしゃがみ込むと、だぶだぶの白衣から僅かに除く指先を己が影に突っ込む。常ならばふかふかの絨毯にて指先は止まろうが、とぷん、とまるで湖面に手を伸ばしたか如き音をさせ、少年の腕は影の向こうの何処かへと沈み込んでいく。

それからしばらく少年は、影の水面を波立たせ、何かを探しているかのような素振りをしていた。


「ん~? 何処に仕舞ってたかなあ。フツーの健診セットで良いんだけどなあ~」

「凄いのね。影の中に仕舞っているの? それって重たくない? どこかに物を置いておいて転移させたりはしないの?」


フールルは未知なる魔法に興味津々の様子である。


「影の中は重さを超越している空間だから重たくないよ。転移魔法も便利だけど有効距離ってあるでしょ? 根無し草にはめんどくてさ~。お、あったあった」

「……定住していないの?」

「ご心配なく。拠点くらいは持ってるよ。でも世界って広いから」


魔族の少年は、フールルにとって見慣れないよく分からない装置を取り出しながらひどく優しげに目を細めた。


「家の外には、ホラ。君みたいなボクが診るべきひとがいる。そんなひとは、探さないと見つけられない。定住している暇なんて無いよ。家の外のひとに会いたければ、家の外に出なければならないんだよ」


どうしてそんな事をフールルに言うのか。

スミレ色の視線の先、フールルは淡く困惑していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る