最終話:私達の幸せは彼女の砕けた恋心の上に

 スマホに、従姉妹から一件のメッセージが送られてきた。『私の用事は終わったからまこちゃん返すね』という一言。

 ふー…と深い息を吐く。

 これから私は、彼に告白をしに行く。返事はもう分かり切っているのだけど、それでもやはり緊張してしまう。

 彼に『今から会える?』とメッセージを送る。するとすぐ『今、お前の家の前にいる』と返ってきた。外を覗くと、走ってきたのか俯いて肩で息をする彼が庭にいた。顔を上げ、私と目が合うと「よっ」と手を挙げた。両親と兄弟達に断り、玄関のドアを開けて彼を家に招き入れる。


「まこちゃんいらっしゃい」


「どうしたんすかそんな息切らして。家出?」


「…家出ならうみちゃんの家の方がいいと思う。うち、泊まる場所ないから」


「家出じゃねぇよ。…空美に大事な話があってきた」


「大事な話…えっ…別れ話…!?」


「いや、まだ付き合ってねぇから」


…ね」


…か…」


 の二文字に過剰に反応する家族。


「あぁもう!空美!行くぞ!」


 まこちゃんは顔真っ赤にして私の手を引いて、私の部屋へ。扉をバタンと少々乱暴に閉めてふーと深いため息をつくと、俯いて固まってしまった。

 握られた手に力が篭るのを感じる。


「…まこちゃん。私から言ってもいい?」


「い、いや…俺から言わせて」


「…分かった。…とりあえず、座ろう」


 私が座ると、彼は机を挟んで向かい側に座った。気まずい空気が流れる。彼はもう、うみちゃんから私の想いを聞いているはずだ。

 私もうみちゃんから彼の想いを聞いた。両想いだと聞いてしまった。それが本当なら、この場で彼の話したいことは一つだろう。


「…俺さ」


 ようやく彼が—俯いたままではあるが—口を開いた。次の言葉を待つ。


「…さっさ、海菜と話してきたんだ」


「…うん。うみちゃんから聞いてるよ」


「…そうか。…空美は…気付いてたか?あいつがその…お前のこと…」


「ううん。…全然気づかなかった。あの子はいつもニコニコしてるから。その裏に隠していた想いには全く気づかなかった。…私はあの子が生まれた時から知っているのに。まこちゃんは?」


「…俺も気づかなかった。…当たり前のように、男が好きだと思ってた」


 だけどきっと、彼女は彼を責めなかったのだろう。私も責められなかった。


「…今から言うことは、あいつの恋を終わらせるための言葉じゃないから」


 そう前置きをして、彼は深い息を吐いてようやく顔を上げた。彼の真剣な瞳に映る私は、緊張しているせいか硬い表情をしていた。


「俺は、お前が好きだ。付き合ってほしい」


 紡がれた言葉に対する返事はひとつしかない。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げると、彼が立ち上がった。そして私の隣に来て、私を抱きしめた。


「…俺が言うの待ってたのか?」


「…ううん。君も同じ気持ちだと思わなくて、言うの躊躇ってた」


「…なら、今言ってくれ」


 背中に腕を回し、言葉を紡ぐ。


「…私もまこちゃんが好きです。付き合ってください」


 彼は私を抱きしめる腕に力を込めて「こちらこそよろしくお願いします」と私と同じように返した。

 幸せを感じると同時に、私達の背中に蹴りを入れてくれた彼女のことが気になる。

 あの子は良い子だ。素敵な女の子だ。私は彼女に対して同じ想いを返してあげられない。それが辛い。私は彼女を愛している。恋愛的な意味ではなく、妹のような、家族のような存在として。彼女には幸せになってほしい。あんな苦しそうな顔、二度としてほしくない。

 今私が出来るのは、私の恋を叶えてくれてありがとうと伝えることだけだ。彼に断って、彼を抱きしめた状態で彼女にお礼のメッセージを送る。『お幸せに』と一言返ってきて、涙が溢れてしまった。

 どうか、どうか、私を愛して私達の幸せを願ってくれた彼女にも幸せが訪れますように。

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終わりなき友情に終止符を打って 三郎 @sabu_saburou

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