第137話 コミュ障のプログラマの話がなかなか進まない

 あの、え~と。

 まず分からない単語がいっぱい出て来た。

 ゲームマスター?

 エンジニア?

 何それ、食べれるの?


「ユウタさん」

「はっ、はい」


 迷い道に入り込んでいた僕を、ガイアが呼び戻してくれた。

 アスミは僕の方を見ず、珈琲の黒い湖面を見つめたまま、ブツブツ何か言い始めた。


「このバグがあるということは、類似見直しが必要だ」

「起動が遅すぎる……」


 ギルドマスター会議では大人しいだけの人だった。

 公の場になると、ブツブツ言いながら考え事をする人の様だ。


「ゲームマスターとは、この世界を管理している人のことです」

「は、はぁ……」

「この世界で不正をした者を取り締まったり、バグの連絡を受け付けたりするのが役目です。つまり、神との橋渡し役……それがゲームマスターです」


 ガイア、物知りだなあ。

 それでも、僕はまだ疑問がある。

 隣に座るリンネも僕と同じように首を傾げる。


「ガイア、私の前では運営のことを神と呼ぶ必要はない」


 突然、アスミか口を開く。


「……はい」


 運営?

 それは一体、何者なんだ?

 僕が困惑しているのを察してか、ガイアが話し掛けてくれる。

 アスミはいつの間にか羊皮紙を取り出し、□や〇を書き出した。

 それを→で繋いだりしている。

 一人、思考の中に入り込んでいる様だ。

 俯くと長い前髪が垂れ、それを鬱陶しそうにかき分けている。

 何だか子供みたいで可愛らしい。

 彼女は説明をガイアに任せ始めている。

 ガイアはアスミの性格を理解しているのか、代わりに説明してくれる。


「ユウタさん、この世界は魔界プロジェクトというゲームの中だということは理解していますよね」

「はい」

「ゲームは運営という人達によって作られ、管理されているんです」


 ガイアはそういったことを大祖先だけでなく、アスミからも教わったそうだ。

 アスミとガイアが関わっていたことを初めて知った。

 そのことに意外な印象を受けた。


世界更新アップデートも運営によっていつ行われるか、どんな内容にするかが管理されているのです」

「……ということは、僕らは運営の人達の手の平の上ということですか?」


 そう言った後、僕は自分でも身もふたもないことを口にしたな、と思った。

 

「救世主よ。それはあんまりな言い方だ。運営とプレイヤーは対等だ。運営が作ったゲームを、プレイヤーは自分なりに楽しむ。そこに上も下も無い」


 アスミが急に話に割り込んでくる。

 ちょっと、語気が強い。


「ま、私の祖父の受け売りだが」


 彼女は珈琲を一口飲んだ。

 彼女はしっかり僕とガイアの話を聴いている様だ。

 そして、言いたいことはハッキリ言う。

 ただ、コミュニケーションが下手なだけなのだろう。


「……で、アスミさん、話とは一体?」


 ガイアが本題に入る様に促す。

 

「ん」


 アスミは頷いた。


「救世主、お前が現れたということ、世界更新アップデートが次で最後ということは、ゲームをなるべく早くクリアしろという運営からの連絡だ。私はゲームマスターとして救世主ユウタに協力する」


つづく

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