第101話 お兄ちゃんは、お前が好き勝手するのを許さないからな!

<リンネ、あなたを地球アースのギルドマスターに指名します。そして、ユウタを支えてあげて下さい>


 通信を通して、皆の脳内にガイアの言葉が響いている。


「おい! ユウタって、あのユウタか!?」


 タイチが私よりも先に驚きの声を上げた。

 私は彼に向かって頷いた。


「……あいつ、救世主だったのか……。全然そんな風には見えなかったのに」


 タイチは壁に手をつき、惜しむ様にそう言った。

 彼にとっては、私が地球アースのギルドマスターに選ばれたことよりも、ユウタが救世主だったということの方がショックだった様だ。


「ガイア。お前、卑怯だな」

<何故です? リンネ>

「私がユウタのことをどう思ってるか知ってて、私をギルドマスターに指名したな」

<ふふふ>


 笑ってごまかすな。

 私はユウタを助けたいと思っている。

 地球アースのギルドマスターになれば、それなりに力を持つことが出来る。

 それは救世主であるユウタと共に戦えることを意味していた。


「ところで……」


 私は疑問に思ったことをガイアに問い掛けた。


「救世主が誰なのかバラしてもいいのか? 確か、姫からはまだ存在を明かさない様に口止めされてただろ?」

<ユウタはもうレベル90の立派な救世主です。だから、姫からは彼の名前を公にしても良いと許可をもらいました。それに……>


 ガイアは一拍置くと、こう言った。


「ユウタは『魔王倒したくない派』から既に命を狙われました。彼の名前は、私や姫が望む望まないにかかわらず、もう広くこの世界に広まっているのです。……それは、救世主である彼の運命なのでしょう」


 魔王倒したくない派ギルドは、魔王共存派とでもいうべきか。

 この世界での生活を手放したくないもしくは、魔王討伐後、この世界が終わると思っている。

 ユウタの運命は全ての人間、否、この世界の生きとし生ける者全ての運命を左右する。

 私はその運命に寄り添いたいと思った。


「分かった。私は地球アースのギルドマスターになろう」


 この世界を、このゲームをクリアした先にあるもの--

 地球ちきゅう

 ゲームの世界から抜け出して、地球ちきゅうで生まれ変わる。

 電子データじゃない、本当の姿で私と彼は出会うんだ。


<ありがとう。リンネ>


 ガイアはユウタを連れて戻ると言い残し、通信を切った。


「では、リンネさん。まずは鉄騎同盟を脱退して下さい」

「うん……」

「それから、地球アースに入るための申請を出してください。地球ちきゅうは今、ギルドマスターが不在なので、私が代理で受け付けます」


 ロドリゴが坦々とギルドマスターになるための手続きを説明する。

 私はタイチの方を見た。

 彼は不機嫌そうにそっぽを向いたままだ。

 セイラもそれにならって、私と目を合わせない。


「兄者……」


 タイチは黙ったままだ。

 口をへの字にして不機嫌をアピールしている。

 私はあえて穏やかに呼び掛けた。

 

「一緒に、地球アースに入らないか?」

「……お前、自分で何言ってるのか分かってるのか? 俺達のオヤジやお袋が作ったギルドを抜けて、誘われたからって別のギルドに行くなんてプライドは無いのか?」


 思った通りの反応だった。

 だけど、仕方ないことだ。

 お互いの間に流れる時間のせいで、関係性は変わり、考えが変わって行ったんだ。


「俺は、お前が鉄騎同盟ここを抜けることを認めねぇからな!」


つづく

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