第102話 兄妹の別れ それぞれの道

 私とタイチのやり取りを、皆、じっと見ていた。

 自分達の立場が今後どうなるか、皆、そのことを心配しているのだ。

 それもそのはず、ギルドマスターを失った地球アースは今や野良ギルドだ。

 その状態からギルドマスターが一週間以内に決まらないと、ギルドは解散となる。

 私は人差し指と中指を立て、こう言った。


「ギルドを抜ける方法は、二つ。クビになるか、本人の意思で辞めるか、だ。私は自分の意志で鉄騎同盟ここを抜ける。だから問題は無い」


 私は自分の心臓に小刀の先端を押し当てた日から、変わった。

 この世界でたった一人の肉親である兄とたもとを分かつことになろうとも、自分の意志に沿って生きることに決めた。


「おい、リンネ。分かってるだろ? 俺達はそう簡単に離れ離れになれないってことを」


 今度はなだめる様に、私に言い聞かせてくる。


 ギルド=家族だった。

 鉄騎同盟は魔王を倒すため、私の両親が結成した。

 モンスターからの攻撃を父親が身を挺してかばってくれたこと、母親が夜通し武器や防具を修繕してくれたこと。

 思い出が頭を駆け巡り、涙が込み上げてくる。

 

 タイチの大きく節くれた両手が、私の頭を包んだ。

 長い黒髪を10本の指で撫でる様にクシャクシャにかき回す。

 私は兄者に、頭を撫でられるのが好きだ。


「やめてくれ」


 だけど、私はその手を払いのけた。


「お前……」

「私は好きな人のために生きる」


 兄者は困惑と諦めが混じり合った様な、複雑な表情を浮かべていた。

 タイチは踵を返した。

 去って行く背中が、小さく見える。


「行くぞ。セイラ。俺達だけでやって行こう」


 声を掛けられたセイラは私を一瞥すると、すぐにタイチの方に向かって歩いて行った。



 ガイアが決めたことに誰も反対しなかったため、私は地球ちきゅうのギルドマスターになった。


「今後とも、よろしくお願いいたします」


 ギルドメンバーが私の前に膝まづき、頭を下げる。

 そういうのが初めてだから、何だか照れくさいし、どう対応していいか分からない。


「おっ……おう」


 真っ赤になった顔を頭巾で隠したいくらいだ。

 さて、ギルドマスターにはなったが、まず何をすればいいのか?

 とりあえずユウタとガイアが戻って来るのを待つか……


「リンネ様、まずはギルドホールを修繕しましょう。それと、DEATHがまた攻めて来るはずです。それに備えなければ」

「うむ」


 ロドリゴに提言され、私は頷く。


「大丈夫です。皆、あなたを支えます」


 彼は私の良いサポート役になるだろう、そう確信した。


「現在、有力なメンバーはラストダンジョンにて3段目の『双子』の段を探索中です。よって、すぐには戻って来れないそうです。彼らがいないのは痛いですが、ガイア様とユウタ様が戻って来るまで、ここは我々だけで乗り切りましょう」


 ラストダンジョンとは、この世界の中心にあるという、13段からなるダンジョンのことだ。

 その最下層に魔王がいるとのこと。

 地球アースのメンバーには最終決戦の場で戦えるほど強い者がいる様だ。


つづく

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