第70話 私が本当の救世主。そうでなければこの世界の方が間違えている。

 私は地球に戻るために、ゲームであるこの世界で必死にモンスターと戦う人間を見て育った。

 大祖先様とその仲間。

 その遺志を受け継いだ私の両親とその仲間。

 生まれた時から私は、彼らの期待を受けて育った。

 その期待に応えるために私はレベルアップに励んだ。

 危険なクエストをこなし、レアなスキルを身に付けた。

 仲間を集め、ギルドを大きくした。

 そして、自分が救世主であると信じる様になった。

 いつしか、右胸にはあざが浮き上がり、能力の高い者から発するオーラを感じ取る様になった。

 だが、それらは姫に言わせれば偽物。

 この世界の救世主の定義とは異なるものだった。


 姫は私にユウタの支援を依頼した。

 その理由は単純だった。

 私が救世主を目指し、魔王を倒そうとしていたからだ。

 なるほど、ユウタと私は同じ目的を共にした同士という訳か。

 だが、どうしたことだろう。

 私はまだ見ぬユウタに対して嫉妬心を抱いていた。


 救世主であること、それが私のアイデンティティだった。

 それがかの者によって奪われた。


 姫の城から出た時、通信が入った。


〈ガイア様〉

「ロドリゴか」

〈リンネさんがギルドホールを抜け出しました〉

「ふむ。何処へ向かっている?」

〈辺境へ向かっています〉

「そのまま後をつけろ」



 そして今。

 リンネは辺境の狩り場から戻り、私は姫の城から戻って来て、ギルドホールの執務室で向かい合っている。


「リンネ、あなたにギルドでの初仕事を与える」


 リンネは頷いた。


「ユウタを、暗殺するのです」

「何故?」

「彼は救世主に相応しくない。私が救世主であるべきなのです」

「嫌だと言ったら?」

「私がユウタを殺すまで」


 しばし、沈黙。

 私はリンネに無言の圧力をかけた。

 ユウタに味方すれば、お前も殺すと。



 ゲリュオンに追い掛けれたリンネは、僕達の前に戻って来ることは無かった。

 そして、いつまでも森にいるのは危険だと判断した僕達は、やむなくリンネを追うことも待つこともやめ、森を出た。


「森の中にあんなに恐ろしいモンスターがいたなんて……」


 セレスが肩を震わせる。


「僕のギルドのギルドマスターが森には近づくなって言ってた。強力なモンスターがいるからって……」

「あれほどのモンスターなら、ミチヤス達も殺されてたでしょうね」


 レベル80台のモンスターがうろつく様な場所に、レベル50から60台が居を構えるなんで無謀なことだ。

 無知とは恐ろしい。

 B.B.B倶楽部の拠点は破壊出来たが、今後のことが心配だ。

 リンネは無事なのか。

 ミチヤスを殺したことで、彼女はDEATHの連中から命を狙われるのではないか。

 そして、この辺境にミチヤスの様な人間がまた来るのではないか。


「早く強くならなきゃ」


 僕は誓った。

 僕はセレス、ウエンディ、そしてフィナに目をやった。

 そして、この場にはいないリンネやネスコのことを思った。

 強くなって、皆を守りたい。

 その為なら、魔王だろうが何だろうが戦ってやる。


つづく

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