第71話 健気な少女の恩返し。 私をギルドに入れてください!

 日が暮れる頃、辺境の街に辿り着いた。


「ユウタ。今日はどうだった? ん? その娘たちは?」


 ネスコも戻って来ていた。

 彼の糸目は僕の後ろにいるセレスとウエンディに吸い寄せられた。


「彼女達のことは後で話すよ。それはそうと、ネスコ。ひどいよ。通信を送ったのに出てくれないなんて」

「すまん。すまん。私も調査で忙しかったのだ」

「だからって……色々と大変だったんだよ」


 僕は今日起きた出来事をネスコに話した。

 セレスとウエンディを助けたこと。

 昔のギルドメンバーに助けられたこと。

 森の中で強力なモンスターに出会ったこと。

 僕は彼の言いつけに従わなかった。

 ネスコは黙ったままだ。

 怒られるだろうなと思った。


「あのっ……」


 セレスが僕の横に並んだ。

 そして、ネスコに頭を下げる。


「フィナさんとユウタさんのお陰で私は命が助かりました! 二人は私の命の恩人です! 私は恩返しがしたいです!」


 彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

 目に涙を浮かべている。

 それにつられて、ウエンディも僕の横に並んだ。


「だから、私をトラ猫協同組合に入れて下さい!」


 ネスコは髭を撫でながらこう言った。


「なるほど。救世主らしい行動だったな」

「怒らないの?」

「もちろんだ。お前の周りにいる人間の目を見れば、お前の行動が正しかったことが分かる」


 ネスコは僕らを見渡し、笑顔になった。


「人間と亜人間は一致団結して魔王を倒さなければならないからな」

「うん」


 こうして、セレスとウエンディは仲間になった。



 夜、フィナの家にて、ネスコが振る舞う料理で簡素な歓迎会が行われた。

 掘立小屋で5人も座ればぎゅうぎゅうになる。

 トウモロコシのポタージュと、硬いパンに蜂蜜、ピラニアの煮つけ。

 辺境の土地は荒廃していて、粗末なものしか取れない。

 だが、仲間達とこうして楽しく食事をとれることは、命懸けで戦った今日を振り返ると、それは奇跡の様だった。


「やはり、テルミンとユメルは殺されていた」


 ネスコは食後の珈琲を飲みながら、今日の調査結果について話した。

 それは、辺境への転移扉の存在が人間にバレたことを意味していた。


「扉は破壊して来た」

「そうなんだ」

「だが、ここへ人間が押し寄せて来るのは時間の問題だ」


 頭を抱えるネスコに、フィナがこう言った。


「大丈夫! 私が悪い奴ら全部やっつけてやるから!」

「フィナはヒノキの棒しか使えないじゃないか」

「ユウタ、私は今日レベル30になったんだよ! 新しい踊りだって覚えたんだから」

「踊りじゃ敵は倒せないよ」


 フィナが僕にジャレつく。


「フィナはレベル30、ユウタ、お前はいくつになった?」

「56」

「そうか、ちょっと成長の速度が遅い気がするな」


 ネスコは腕を組んで考え込んだ。


つづく

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