第72話 スパルタ調教で目指す、一週間でカンスト生活

「ユウタは頑張ってるよ」


 フィナがフォローしてくれた。


「それは分かっている。だが、一ヶ月でレベル90はやはり、ユウタだけの力ではちょっと無理なんだろう」


 確かに。

 モンスターを一体を倒すのに、結構時間が掛かっている。

 フィナもサポートしてくれるが、同等レベルのモンスターだと1、2時間は掛かる。


「……そこで、強力な支援者を姫から紹介された」


 次の日、僕とフィナはグリフォンの背に乗っていた。

 転移扉はもう存在しないから、7時間くらい空の上を旅した。

 その間、これから会う姫と、僕を支援してくれる人について、あれこれ想像していた。


「見えて来た」


 手綱を握った調教師テイマーのゴリッチュが街を指差した。

 彼は街外れの荒れ地に、グリフォンを着陸させた。

 ここから先は徒歩での移動となる。

 街の人間達が僕らに好奇の視線を投げ掛けて来る。

 街中を猫人間とエルフと一緒に歩く人間なんて、そうはいない。

 街の中央にある城に着いた。


「どうぞ」


 ネスコの顔を見た兵士が、扉を開けた。

 僕らは最上階の大広間に通された。


「ようこそ」


 初めて見る姫は僕にとって美し過ぎた。


「ユウタッ!」


 見とれている僕を、フィナが肘で小突く。

 我に返る。

 姫の隣にいる白いローブをまとった少女が気になる。


「あなたが救世主なのですね」


 姫が玉座から立ち上がり、僕の前で膝まづいた。


「ひ、姫! そんな、僕は大した者じゃありません!」

「魔王からこの世界を救ってください」


 姫は顔を上げた。

 笑顔だった。

 僕の手を姫は握った。

 運命の様なものを感じた。

 白いローブの少女の身体が一瞬、ピクリと動いた様な気がする。


「姫、支援者について……」

「ネスコ、分かっています。ガイア、来てください」


 白いローブの少女の名はガイア。

 彼女は僕の目の前に立った。


「ユウタさん。ガイアです。よろしくお願いしますね」


 彼女は軽く会釈した。

 僕の緊張をほぐすためか、おどけた様に小首を傾げ笑顔になる。

 腰まである白銀の髪が揺らめく。

 朱の差した白いおもて、大きな目には濃い緑色の瞳。

 僕はその瞳に吸い込まれそうになる。


「ユウタッ!」


 フィナが僕の肩をパンチする。


「す、すまん」


 魅入られるところだった。

 そう表現した方がいいくらい、ガイアは魅力があった。


「彼女は魔王討伐に一番熱心なギルド地球アースのギルドマスター。ユウタと同じ治癒魔法使いでレベルは90」

「90!?」


 僕はビビった。

 この世界に100人しかいないレベル90台だ。

 そんな人と修業出来るとは。

 そういえば、鉄騎同盟は地球アースの傘下に入ったとリンネは言っていた。

 縁があれば彼女にもまた会えるかもしれない。


「ユウタ。あなたはこれからガイアと、辺境の狩り場でパワーレベリングを行ってもらう」

「はっ、はい! でっ……でも」

「でも? 何?」

「ガイアさんはギルドマスターなんですよね? しかも大所帯の。そんな人が僕なんかに時間を取られて大丈夫なんですか?」


 姫はガイアの方を向いた。

 ガイアがおもむろに口を開く。


「ユウタさん。その辺りはお気になさらずに。私がいない間、代理の者がギルマスをつとめます」

「ユウタ。ガイアはお前を全力で支援すると誓ってくれたのだぞ」


 姫が付け加える。

 ガイアは姫に向かって頷くと、右手の人差し指を一本立てこう言った。


「それに……私がギルドを空けるのは一週間だけ……」


 そして、ガイアは一拍置くと、こう言った。


「それだけの期間で、ユウタさんを私と同じレベル90にしてみせます」


 彼女の瞳が妖しく光った。


つづく

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