第69話 救世主は運営がプログラミングした乱数発生プログラムで、ランダムに決められる。

「姫、一体なんでしょうか?」


 先程まで、5大ギルドのギルドマスターが集結していた広間。

 今、そこにいるのは私と姫だけだ。


「座りなさい」

「はい」


 姫と向かい合う。


「あなたにだけ、救世主の具体的な情報をお話しします」


 姫が私の目を見据え、そう言った。


「何故、私にだけ?」

「あなたに救世主を支援して欲しいから」


 私のプライドはズタズタだった。

 私は自分が救世主であることを信じていた。

 胸にある星形の聖痕はその証だし、守護者が発するオーラを感じ取ることだって出来る。

 それでも、姫は私を救世主だと認めてくれなかった。


「その者の名はユウタ。治癒魔法使い、男、16歳。今は、辺境近くの狩り場でレベルアップに勤しんでいる」


 淀みなく、姫は姫が認めた救世主を紹介する。

 ユウタ。

 名前だけは知っていた。

 彼はリンネが属する鉄騎同盟にいた。

 レベルは低く、大して強くも無いと聞いている。

 そんな者が、救世主とは……。


「姫。私こそが救世主です」


 私は姫の話の腰を折ってしまった。


「自称するのは自由だ」

「自称ではありません。私は本物です。胸にある星形の聖痕、守護者が発するオーラを感じ取る能力。これこそが、本物であると」


 大祖先様が持つ攻略本にはそう書かれている。


「ガイア」

「何ですかっ!?」


 自分でも分かるほど声を荒げていた。

 気付けば、私は姫に対して無礼な態度をとっている。


「そなたの聖痕は右、左、どちらにある?」

「右です」

「本当の救世主の聖痕は左胸にある」


 姫が自分の左胸を指し示す。


「……ですが、攻略本には右胸に、と……」

「ガイア。攻略本に書かれていることが全て正しいとは限りません。そこには嘘や推測そして願いが書かれていることもあるのです」


 絶句して何も言えなくなった私に、姫はこう続けた。


「救世主とは伝説の剣ファルシオンを手に、聖なる魔法スターライトを使って魔王を倒す者。かの者は、エルフの王女のダンスでその使命に目覚める」


 姫が言う救世主の条件、そのどれにも私は当てはまらなかった。

 姫曰く、


「私の頭の中には生まれつき、その条件を満たした者しか救世主と認めない……そう埋め込まれている」


 私は問い掛けた。


「何故、ユウタが選ばれたのですか?」

「ガイア、あなたは武力、知力、勇気全てにおいてユウタより優れている。あなたこそ救世主にふさわしい。だが、救世主は不規則ランダムに決まる。それはこの世界の摂理であり、この世界の誰をもってしても、その摂理を変えることは出来ない。何故なら神が作った摂理だから」


 能力に関わらず、神から選ばれし者だけが救世主になれる。

 ユウタがいなければ、他の誰か、もしかしたら私が選ばれたかもしれないのだ。


つづく

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