第68話 5大ギルドマスター集結! 救世主の命を狙う者達

 リンネと向かい合ったまま、私は数時間前のことを思い出していた。


 私は姫の城にいた。

 私だけでは無い。

 5大ギルドのギルドマスター全てが招集されていた。


「待たせたな」


 久々に姫の姿を見た。

 この世界の人間を統べる者、それが姫。

 黒く大きな瞳に通った鼻筋。

 唇は桜の花びらを二枚重ねた様に小さい。

 逆三角形の小さい顔を、ツヤツヤの黒髪が囲む。

 女の私が見ても、ため息が出る程美しかった。


「今日緊急に集まってもらったのは他でもない。遂に救世主が見つかったのだ」


 鈴の音が鳴る様な声が、広間に響いた。

 驚く者、表情ひとつ変えない者、口角を上げる者、黙り込む者。

 それぞれの胸の内を反映するかの様に、誰一人同じリアクションを取る者はいない。

 姫は私の目をじっと見た。

 姫は遂に私を救世主と認めてくれなかった。

 そのことが私をどれほど傷付けたか。


「救世主とはどんな奴だ? 会わせてくれ」


 マリアンが声を上げる。

 彼女がギルドマスターをつとめるDEATHは魔王討伐に消極的だ。

 救世主の登場を快く思っていない。


「今はまだ、お披露目することは出来ない」

「何故?」

「救世主はまだ脆弱な存在なのだ」

「だったら、我らDEATHが守るべきだ」


 その言葉を、姫は手で制した。

 マリアンが不機嫌そうに尋ねる。


「おいおい、なんでだよ」

「それはあなた方が一番良く分かっているはず」

「へっ。我々が、この世界を救う救世主様に危害を加える訳が無いじゃないか」


 姫の皮肉を、マリアンは受け取った様だ。

 彼女は真っ赤な髪を指で遊びながら鼻で笑った。


「まぁまぁ、マリアン様。いずれ救世主殿に会える時が来るでしょう。あなただって倒すなら強い相手の方が良いでしょう? その時の楽しみにとっておけば……」


 笑いながらそう言うのは、富の会のギルドマスター、ロゼ。

 彼女のギルドもどちらかといえば、魔王討伐には乗り気でない。


「救世主なぞこの世界のバグだ。興味がある。どんな奴か」


 丸眼鏡をクロスで拭きながらそう言うのは、ジャヴァ・パイソンのギルドマスター、アスミ。

 彼女のギルドは中立的立場だった。


「救世主様……早く会ってみたいものですわ……」


 メイド服のスカートを両の拳で握り締め、目を輝かせているのは絶対成敗のギルドマスター、モモ。

 ポンの商売を奪われた彼女のギルドは、大きな収入源を失った。

 そのため、5大ギルドの中で最底辺の地位になった。

 立ち位置的には、魔王討伐には積極的だ。


「ガイアは救世主についてどう思う?」


 マリアンが私に問い掛ける。

 私は笑顔を作り、こう言った。


「全力で支援するまでです」


 その後、話題は変わり、お互い情報交換を行った。(といっても、皆、それぞれが持つ本当に有益な情報は伏せているだろう)

 最後に、姫が場を締める様にこう言った。


「皆、思いはそれぞれあると思うが、救世主が見つかったことで魔王討伐に向けて一致団結してほしい」


 解散となった場から、皆、去って行く。

 城を出たところで、通信が入った。


<ガイア>


 姫からだ。


「何でしょう?」

<話したいことがあります。戻って来てください>


つづく

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