第64話 今の本当の僕のことを話そう
僕は洞穴の横で倒れているセレスに治癒魔法を掛けた。
「ありがとうございます。ユウタさん」
ミチヤスが死んだことを告げると、彼女は複雑そうな顔をした。
あんなギルドマスターだが、彼女にとっては自分を奴隷という立場から救ってくれた恩人でもあるのだろう。
「すまんな」
「いいんです」
リンネの謝罪にセレスは小さく頷いた。
ギルドマスターを失ったギルドは、野良ギルドとなる。
ステータスに表示されるギルド名に▲が付く。
それが野良の証だ。
ギルドマスターが一週間以内に決まらないと、ギルドは解散となる。
必然的に所属メンバーはソロとなる。
僕らはセレスを先頭に、洞穴の中へと進んだ。
中は、天井が高く広い。
所狭しと、モンスターから採取したであろう素材やアイテムが積まれている。
ご丁寧にかまどや調理器具、寝床まで用意されていた。
セレスが言うとおりだった。
彼らはここを拠点に、活動しようとしていたのだ。
奥に人影が見えた。
「ユウタ!」
ソプラノが響く。
フィナだ。
無事に再会出来た喜びで、思わず駆け出していた。
背中にリンネの視線を感じた様な気がする。
フィナは縄で縛られていた。
その横にはウエンディがいた。
そして、その側には、首の無い侍と武闘家の死体が転がっていた。
「このエルフがユウタの大事な人か……」
リンネが呟く。
僕は無言で頷く。
心の中ですまないと思う。
「あ、さっきの忍者の人だ!」
フィナがリンネを指差して叫ぶ。
縄は強力な素材で作られているらしく、容易にほどけない。
「どけ」
リンネが僕を横にどかせる。
彼女は小太刀で、フイナの戒めを解いた。
そして、フイナに対して強めにこう言った。
「暗殺者だと言ってるだろう!」
「いやいや、どう見たって忍者でしょ。武器とか服装とか。ねーねー、ユウタ。この人、私の命の恩人だよ」
フィナが僕の方を向く。
確かに。
リンネの姿と喋り方は、忍者という感じだった。
というか、この世界の暗殺者は日本という国の忍者をベースに作られたと聞いたことがある。
「リンネは今、どうしているんだ?」
「私は今も鉄騎同盟だ。だが……」
リンネは僕が抜けた後の鉄騎同盟、そして5大ギルドとの間に何があったか話した。
「大変だったんだな」
リンネは目を伏せた。
長いまつ毛が、影を作る。
そして、思い切った様にこう言った。
「ユウタ。戻って来い」
「いや、無理だよ……僕はフィナと一緒にいなければならない。それに……僕は……」
救世主。
そう口にしそうになって、慌てて飲み込んだ。
「ならば、フィナと一緒にギルドごと来い。今のギルドよりははるかに安全だ」
リンネは
だが、
「リンネ」
「何だ?」
「僕は救世主なんだ」
リンネは僕の命の恩人だ。
彼女には本当のことを、言っておこうと思った。
つづく
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