第48話 美少女暗殺者は一転、辺境を目指し、初恋の元へ

 さっきから狩り場の事について話す二人の声に、聴き耳を立てる。

 彼らは私から数メートル離れているので聴き取りづらい。

 割り込んで色々訊き出そうかとも思った。

 だが、このギルドホールで顔をまだ良く知られていない私に、この二人が警戒する可能性がある。

 私は物陰に隠れ、通信虫を飛ばした。


<辺境の近くに狩り場がある。そこはモンスターの出現率も半端じゃねぇし、素材のドロップもこの辺りの狩り場とは比較にならねぇくらい多いらしい>


 ゴツイ髭面の男が唾を飛ばしながら興奮気味に言う。

 それを聞いた面長の禿げ頭の男が、こう言う。


<辺境なんて地の果てにどうやって行けるんだよ? そんなところで手に入れた素材をどうやって運搬するんだよ? お前、騙されたんだよきっと>

<何でも、この街から少し離れた田舎にある転移扉で行き来できるらしい>


 武器工房にカムフラージュしたその場所。

 そこの地下室に転移扉があり、そこが辺境とつながっているらしい。


<間違いないって。俺は『B.B.B倶楽部』の知り合いに金を払って教えてもらったんだ>

<B.B.B倶楽部っていえば、DEATHの傘下じゃねぇか。親ギルドもそうなら子ギルドも戦闘好きだもんな>


 DEATHか……。

 私達を罠にはめ、屈辱を与えた奴ら。

 復讐すべきギルドの一つ。

 DEATHのギルドマスターであるマリアンの妖艶な笑顔が脳裏に浮かび、反吐が出そうになる。

 ユウタを失ったのも、元はといえば奴らのせいだ。


「殺したい……」



「おっと、あなた鉄騎同盟の方ですよね」


 出口に向かう私に、笑顔で声を掛ける男がいる。


「そうだが」

「駄目ですよ。あなたは追われてる身なんだ。ガイア様から一歩も、外に出すなと言われている」


 彼は私の行く手を阻む様に、回り込んだ。

 鎧に身を包み、ロングスピアを手にしている。

 この目の細い黒髪の優しそうなこの男は、このギルドホールの門番の様だ。

 出入りする人間を管理しているのだろう。


「ちょっと買い出しに行くだけだ」

「代わりの者に行かせますので、何が欲しいか教えてください」

「自分で行ける」

「困ったなぁ」



 ギルドホールを抜け出した私は、街を歩く。

 今頃、門番の男は私が残した残像と会話していることだろう。

 『三分残像スリーミニッツ・アフターイメージ』はSPを多く消費するのであまり使いたくないが、仕方ない。

 私は転移扉が存在する武器工房に向かうことにした。

 その道中、『トラ猫協同組合』が入居するギルドホールを目指す。

 ユウタが新しく加入したというギルド、それがトラ猫協同組合だった。

 かのギルドが亜人間で構成されたギルドだというのは聞いたことがあった。

 そして先ほど耳にした辺境という言葉。

 ユウタは辺境にいる。

 私の直感がそう言っている。

 辺境といえば、亜人間。

 辺境に行く前に、トラ猫協同組合に寄って見ても損は無いだろう。


 歩くこと3分。

 トラ猫協同組合が入居するギルドホールが見えて来た。

 今頃、門番の男は私の残像が消えて驚いているだろうか。

 私の無断外出がそろそろバレるころだろう。

 ガイアにはすまないと思うが、私はユウタにもう一度で会いたい。

 

 ギルドホールの入り口に立つ。

 最後にユウタと出会った場所だ。

 壁には、私の投げた手裏剣が刺さった跡がまだ残っている。


「血の匂いがする」


 感慨に浸っていたかったが、そうもいかない様だ。

 血の匂いはトラ猫協同組合の入居している部屋から漂ってくる。


つづく

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