第42話 ヒロインはNPC。婚約破棄以前に、結婚出来ません。

 鉄騎同盟でパーティを組んで戦ってた頃、僕はある発見をした。

 後衛の僕は、前衛で戦う仲間達に治癒魔法を掛けた。

 その瞬間、モンスターの視線が僕の方に向いた。


 こっちに来る。


 そう思った。

 まぁ、モンスターが僕に襲ってくる前に、タイチやリンネが真っ二つにしてくれたんだけど。

 その体験から、僕はこう思った。


 治癒魔法は挑発スキルに値するんじゃないかって。


「フィナも敵の中に治癒魔法を使う奴がいたら、邪魔だって思うだろ?  一番最初に何とかしなくちゃって思うよね」


 僕の説明を受けた彼女はこう応えた。


「うん。そうだね。せっかく痛めつけたモンスターのHPが回復したら、時間が損するもんね!」


 なかなか合理的な返しだな。


 兎に角、今回はそれをちょっと応用して見たが上手くいって良かった。

 それにしても、盾役は疲れる……。

 何というか、後衛を守るために責任を感じてしまう。

 タイチはこんな気分で戦っていたのか。

 そう思うと、ちょっと彼のことを尊敬した。


「ほら、ユウタ。見てよ。いっぱいドロップしてるよ!」


 フィナが指す先には、沢山の素材が転がっていた。


 ホブゴブリンの骨。

 トゲの付いた棍棒。

 黒曜石。

 鉄の膝あて。

 鉄の手甲。

 薬草。

 ポーション。

 そして金6400エン。


 なかなかの報酬だ。


「レベルが42になりました」

「HPが3116になりました」

「MPが2509になりました」

強聖攻氣ストロンガー・ホーリーアタックを覚えました」


 レベルアップを告げる声が脳内に響く。

 いつもの機械的な女性の声だ。


「フィナも上がったー! レベル24だよ!」


 嬉しそうに僕の手を取ってピョンピョン飛び跳ねる。

 僕は戦いで武器を失った。

 だから、ホブゴブリンがドロップしたトゲ付き棍棒を装備することにした。

 さて、その他のアイテムも貰って置きたいが……、もう手に持てない……。

 

「ユウタ! これこれ」


 フィナが腰に巻いたポシェットに、アイテムを次々入れている。

 まるで吸い込まれる様にアイテムが入って行く。

 だが、一向にポシェットは膨らまない。


「これは一体?」

「んとね、きっと……」


 フィナが言うには、ネスコがポシェットに空間魔法を掛けてくれたお陰らしい。

 アイテムはこのポシェットを通して異次元の格納場所に一時保存される。


「ネスコの十八番だね」


 付与術師であるネスコは空間魔法の使い手だったのだ。


「じゃ、あと半分は、ユウタの分ね!」

「うん」


 残りの分を僕はポシェットにしまう。

 

「経験値もアイテムも半分ずつだね」

「うん」

「経験値は仕方ないにしても、アイテムは二人で共有したいね」


 フィナが眉根を寄せる。

 パーティを組んでいる以上、それは仕方なかった。


「そしたら私の持ってるアイテム、ユウタに全部渡せるのに……」


 彼女はポシェットを恨めしそうに見る。


「あ、そうだ」


 僕は閃いた。

 二人で一つを目指すなら……

 否、まだちょっと早いかな。

 でも、これからのことを考えると……


「フィ……フィナ……ぼっ、僕と……」


 口の中がカラカラに乾いて声を上手く出せない。

 鼓動が激しい。

 真っ赤な僕の顔を、フィナはじっと見つめていた。


「結婚しよう」


 そう。

 結婚すれば、金もアイテムも共有出来る。

 それがこの世界の摂理だった。


「無理だよ」

「え? 何で?」

「ユウタと私は結婚出来ないんだよ」


 その証拠に……

 と、フィナはこう続けた。


「無い! 結婚コマンドが無い!」


 脳内に浮かんだメニューに、それは無かった。

 正確に言うと、結婚相手にフィナを選ぶことが出来ない。


「ユウタ……」

「フィナ……どうして?」

「NPCと人間は結婚することが出来ないんだよ」


つづく

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