第41話 モンスターの行動《アルゴリズム》はプログラミング通りです。

 僕だって、鉄騎同盟でパーティを組んで戦って来た。

 多少、戦闘の経験はある。


「フィナ、任せて!」

「うん」


 僕は背中に彼女の熱い視線を感じながら、自らを奮い立たせる。

 そして、今一度、冷静になる。

 モンスターが、パーティメンバーを襲う順番--

 その行動アルゴリズムを脳裏に浮かべる。


「さぁ! 来いっ! 雑魚ども!」


 僕はあらん限りの声を出した。

 だが、ホブゴブリンは僕の挑発に乗ってこない。

 やはり、挑発スキルが無いとダメか。

 いくら声を張り上げても、敵を引き付けることは出来ない様だ。

 ホブゴブリンの視線の先には、フィナの姿がある。

 行動アルゴリズム通りの動きだ。


「ユウタ! 私、頑張る!」


 フィナが健気にもヒノキの棒を持って構えている。

 その姿を見て、僕は彼女を守らなければ、と思う。

 と同時に、彼女に手をかざす。


小回復スモールリカバリ!」


 小さな光がフィナを照らす。


「え? 何で? 私、HP満タンだよ」

「後で理由は話す」


 その瞬間、ホブゴブリンの標的ターゲットが、フィナから僕に変わった。

 しかめっ面に青筋を立て、獰猛な唸り声を上げ突っ込んで来る。

 思った通り。

 

 聖魔法をホブゴブリンに打ち込みたいが、詠唱する時間は無さそうだ。

 僕は鉄のショートソードを構えた。

 剣技は苦手だが、我武者羅に振り回す。

 敵がひと固まりになって襲って来たことが功を奏した。

 運良く、3体それぞれにクリーンヒット。

 吹っ飛ばされ、地面とキスしている。

 それにしても……、僕は自分の成長ぶりに驚いていた。


「わぁ! ユウタかっこいい!」


 フィナがピョンピョン飛び跳ねている。

 通常時も戦闘時も、彼女は同じノリだ。

 そのお陰で、僕は緊張せず肩に力が入らないで済む。


 2体が立ち上がり、フィナに照準を合わせ向かってくる。


「よぉし! 今度こそ!」


 フィナがヒノキの棒を構える。


小回復スモールリカバリ!」

「え!? 何で?」


 フィナがキョトンとしている。

 2体が軌道を変え、僕に襲い掛かる。


 剣よ、敵もろとも砕けよ。


 そう願わんばかりに、叩きつける。

 HPが0になったホブゴブリンは、素材と金をドロップしながら絶命した。

 残ったもう1体が、フィナに突撃する。

 僕は詠唱する。

 僕の側を、最後のホブゴブリンが疾駆する。


「お、今度こそ私が倒す!」


 フィナがヒノキの棒を構える。

 ホブゴブリンが飛び掛かる。

 その瞬間、僕の手から閃光がほとばしる。


聖攻氣ホーリーアタック!」


 背中に聖なる一撃を喰らったホブゴブリンは、その反動でエビ反った。

 HPが0になり絶命した。


「ユウタ! すごーい!」

「驚いた。自分でも」

「でも、何で小回復スモールリカバリを使ったの?」


 フィナが不思議そうな顔をして僕の顔を覗き込む。


「僕が君の盾になるために使った」


 モンスターが、パーティメンバーを襲う順番--

 その行動アルゴリズムは、こうだ。

 

 1.挑発して来る者

 2.HPが一番低い者

 3.防御力が一番低い者


 モンスターの賢さによって変化することもあるがホブゴブリン程度なら、基本はこの行動アルゴリズムに沿う。

 特に、挑発はモンスターの敵愾心ヘイトを最も煽る。

 挑発は前衛の戦闘職(戦士、侍、暗殺者など)が有するスキルだ。

 後衛の援護職を守るために、自らの危険を顧みず、前衛は挑発スキルで敵を引き付ける。


「僕には挑発スキルは無い。だから、代わりに治癒魔法をフィナに使うことで、敵を引き付けた」

「ユウタ、意味分からん! 何で治癒魔法を使うとユウタが襲われる?」


つづく

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