第39話 逆に、異世界から地球に転生しても、小指の赤い糸の先はしっかり存在してる。

「私が魔王を倒す理由。それは……」


 答えの代わりとして、ガイアは私に本を渡した。


「これは?」

「大祖先様達、つまりゲームに閉じ込められた最初の世代の人達が、書き綴って来たものです」


 表紙にはこう書かれている。


地球ちきゅうのあるきかた』


 ページをめくる。


 花、星、緑、空、食事、空気、水。

 それらは、ゲームという牢獄の中にもある。

 だが、地球に存在するそれと比べると、ゲームのものは色褪せて見える。

 人の容姿、声もそうだ。

 高度なレンダリングで、どの顔も美男美女に作られている。

 声優かと思う程の綺麗な声は、多数のボイスサンプルから最適なものが選ばれているのだろう。

 最初の頃は良かった。

 だが、時が経つにつれ……

 地球ちきゅうでの顔を元にしているとはいえ、これでは何とも味気ない。

 そう感じる様になって来た。



「何だこれは?」


 ここでの世界が全ての私には、特に気にならなかったことが書かれている。

 料理が素材を選択することだけで完成することも。

 離れていても脳内で会話が出来ることも。

 生まれた時からそうだったから、という理由で私は全てを受け入れていた。


「貸しますので、読んでおいてください」



 用意されたギルド部屋に戻ると、既にタイチとセイラは就寝していた。

 私はベッドに座り、本を開く。



 いつの間にか寝ていた。

 窓から差す日の光で目が覚めた。


<リンネ>


 ガイアから通信が入った。

 

「読んだぞ。地球ちきゅうは少なくとも、この世界よりは素晴らしい場所だな」

<はい>


 この世界にある海より、青い海。

 果ての無いどこまでも続く丸い大地。

 この世界より不便だが、どこまでも複雑で、行って見たい世界だと思った。

 地球ちきゅうでのユウタはどんな容姿なんだろう。

 この世界で触れるよりも、もっと、体温を感じることが出来そうな気がする。


「だけど、私達は地球ちきゅうには行けない」

<確かに。行くことは出来ません。が、転生することは出来る。私はそう信じています>

「どういう意味だ?」

<大祖先様は、死ぬとになると言っていますが、私はそうは思いません>

「ふむ……」

<この世界の神話……>


 『救世主』は『守護者』を引き連れ魔王を倒す。


「それは知っている」

<その後、こう続いているのです>


 犠牲になった全ての魂は救済される。


「それは初耳だ」

<大祖先様達は、この世界で出会った者と地球ちきゅうで再会し、恋愛をし、結婚し、私達子孫を生むのです>


 なるほど。

 神話の通り、救世主が魔王を倒す。

 すると、

 この世界で死んだ者も含め全員、地球ちきゅうに置いたままの肉体に戻れるという訳か。

 この世界で一緒になった者同士が、地球ちきゅうでお互いを見つけ出し、一緒になるのは必然だろう。

 私は想像した。

 自分の祖先が地球ちきゅうに戻り、数十年後に私が地球ちきゅうに生まれるということを。

 そして、ユウタと出会うということを。


<では、今日はこれで>


 通話は切れた。

 今日は、大仕事がある。

 今の話をタイチとセイラに話さなければ。

 行き場のない鉄騎同盟が、地球アースの庇護を受けるには、その思想と行動原理を理解してもらわなければならない。


つづく

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