第34話 奴隷の中でも底辺だった僕(しかも売れ残り)が、偉そうに人を選べる立場になるなんて。

「僕が守護者を選ぶ……」


 奴隷市場では僕はいつも売れ残っていた。

 そんな奴隷の中でも底辺だった僕が、救世主だった訳で……。

 そんな僕が、誰かを選べる立場になるなんて。

 僕の困惑を落ち着かせる様に、ネスコが頷く。

 そして、こう言う。


「これ、覚えてるか」


 ネスコが一振りの剣を僕に差し出した。


「火竜の剣……」

「この剣をお前に渡す。これで守護者を召喚するぞ」



 外はすっかり暗くなっていた。

 果て沿いに歩く。

 暗闇に落ちない様に、月の明りを頼り、ネスコとフィナの背中を追い掛ける。

 他の亜人間達は寝てしまったのか、点在する小屋から明かりは消えていた。

 森の中に入る。

 ネスコが立ち止まった。


「ここだ」


 小さなほこらがある。


 ネスコが言っていた『守護者降ろしのほこら』。

 それがこの祠だった。

 ネスコが祠に付いた埃を払い落とし、僕の方を向いた。


「ユウタよ。この世界には攻略本に載っていないアイテムや場所がまだまだ沢山ある」


 攻略本には、この祠の存在は書かれていなかった。


「攻略本はこの世界に迷い込んだ人間達の知の集積物だ。当然、人間達が手に入れたことのないアイテムや、踏み込んだことのない場所は、ここに書かれていない」


 ネスコが攻略本を指差す。


「人間達の飽くなき探求心によって、この世界は日々攻略が進んでいる。それを嘲笑うかの様に、神は世界更新アップデートを行う。従って、攻略本は常に人間達によって加筆修正されている。攻略本は、人間達と神の戦いの記録でもある」


 僕は攻略本が神々しく見えた。


「だから、今、私が持っているものが最新版ではない」


 誰が最新の攻略本を持っているのか。

 その人は、この世界を征するに値する者なのだろうか。

 ネスコは続ける。


「ユウタ。お前にしか書けないことがある」

「それは一体?」

「選ばれた人間しか手に入れることが出来ないアイテムや、選ばれた人間しか踏み込めない場所がある。それらは選ばれた人間がここに書かなければ……」

「書かれることはない」


 僕の答えに、ネスコが大きく頷いた。


「ユウタ、お前は選ばれた人間、つまり救世主だ。私は救世主を守護者降ろしのほこらに導く運命を背負っている」


 ネスコの肉球が祠に触れる。

 それに共鳴するかの様に祠が光り輝いた。

 フィナと僕とネスコの顔が、眩い光に照らされる。


「では、守護者降ろしの仕方チュートリアルといくか」



<守護者は、救世主が持つ特定のアイテムに引き寄せられる>


 それはこの祠に、アイテムを捧げることから始まる。

 僕は火竜の剣を祠に捧げた。


「守護者よ。我に力を。共に魔王を倒すべく」


 僕はネスコに言われた通り祈った。

 月を覆っていた雲が二つに割れた。

 そこから光が祠に向かって降り注いだ。

 視界が真っ白になる。

 それは、ほんの一瞬の出来事だった。


「俺の名はアカヅキ。戦士職」


 僕の目の前にタイチを彷彿とさせるイカツイ男が現れた。


つづく

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