第33話 愛情だけでは作れない。異世界では素材、運、スキルで、美味しい料理は決まる。

 グリフォンの背中の上で揺られること1時間。

 僕は辺境に辿り着いた。

 来て見て分かった。

 辺境はこの世界の果てそのものだ。


「何てことだ……」


 僕は果ての突端まで行き、果ての無い暗闇を見下ろした。

 下半身がゾクッとする。

 が、その暗闇に魅入られそうになる。


「ユウタ。気を付けろ。落ちると、この世界から消えるぞ」


 ネスコに言われて、僕は我に返った。

 小さい頃、この世界の地図を見たことがある。

 場所は図書館だったか。

 奴隷生活での唯一の憩いが、一日30分だけの読書だった。



「この世界の形、見たことある?」

「ないよ」

「じゃ、見せてあげる」


 同じく奴隷だった少女が僕に見せてくれた。

 この世界の地図。

 真四角の大陸。

 それを縁取る黒。


「この黒いところの近くに、エルフとかドワーフとかが住んでるんだって」

「何だってこんな隅っこに……」

「私達が人間が、彼らを辺境に追いやったんだよ」


 彼女の小さい指が、縁取りの黒を指す。

 お互い奴隷だった僕と彼女は、亜人間の気持ちが何となく分かった。



 辺境と言うだけあって、酷い場所だった。

 荒涼とした大地を何とか耕し、痩せた苗を植えている。

 脆弱な流れの川が、ここでは命を繋ぐ水源だった。


「ここがフィナの家だよ」


 彼女は家と呼ぶのもためらう様な、ボロボロの小屋に住んでいた。


「フィナ」

「何?」

「お父さんとお母さんは?」


 フィナはエルフの王女だ。

 身内が一人も出迎えに来ていないとはどういうことだ。


「いないよ」

「え?」

「死んだ」


 フィナはあっけらかんとそう言う。

 散々悲しみ抜いて、もう悲しむことに飽きたのか。

 そんな笑顔だった。

 彼女の過酷な運命を物語る様で、僕は胸が締め付けられた。

 病気か何かで死んだのか、恐らく、誰かに殺されたのか。

 僕はそれを訊く勇気が無い。


「それでも私達は人間のために生きる運命なのだ」


 ネスコがそう言う。


「フィナが美味しい料理を作ってあげるよ」


 この世界における調理とは、以下の様に行う。


 ・素材を選択する。

  (所有しているものの中から選ぶ。何かの肉、胡椒、野菜、魚、など)

 ・調理方法を選択し手順を組み上げる。

  (所有している調理スキルの中から選ぶ。煮る、焼く、茹でる、など)


 これらの選択は、脳内にメニューと呼ばれる選択領域を呼び出して行われる。

 美味しいものが出来るかどうかは、以下が関係する。


 ・素材

 ・調理方法

 ・性別

 ・職業

 ・手先の器用さという隠しパラメータ

 ・運

 ・レベル


「出来た!」


 フィナが初めて僕に振る舞った料理は、黒焦げのピラニアだった。


「ユウタ」

「何?」

「守護者について話してなかったな」


 夕飯後のお茶の時間。

 テーブルの中央には攻略本。

 それをランプの明りが暖かく照らす。


「こう書かれている」


 ネスコが攻略本の一文を指差す。


<守護者は、救世主が持つ特定のアイテムや、特定のクエストの達成に引き寄せられる。救世主が気に入らなければ何度でもチェンジ可能>


「どういうこと?」

「要約すると、お前が気に入った者を守護者に出来るということだ」


つづく

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