第30話 行き場を失った野良ギルドに、地球の名を背負う少女が手を差し伸べる。

「やはり来ましたか。リンネ」


 私の目の前にいる15歳の少女。

 白いローブをまとい、腰まである白銀の髪が月の明りで光っている。

 朱の差した白いおもて

 その中央にある大きな濃い緑色の瞳の中に、私が映り込んでいる。


「よろしくお願いします」


 私は膝をつき、そう言った。


「よろしい。我が傘下に入ることを認めます」


 少女の小さな顎が微かに上下する。

 彼女はガイア。

 『地球アース』のギルドマスター。


 数時間前までのことを思い出す。



 ペガサス旅団をデスマッチで全滅させた私達は、闘技場を後にした。

 このままで済むとは思えない。

 生き残ったタイチ、セイラ、私は、ギルドホールには戻らなかった。

 奇襲を警戒し、拠点を捨てた。

 野良ギルドは街の雑踏に紛れ、今後のことを話し合っていた。


「リンネ。お前が使った、あのアイテム。あれは一体どこで手に入れた」

召喚玉サモンか。ガイアから貰った」


 迷ったが、それを使うしかなかった。

 デクの挑発に乗せられたタイチは、不利なデスマッチで戦うことを了承した。

 それはそれで仕方がない。


 戦いを要約するとこうだ。

 ジャッジメント役のNPCが現れる。

 彼の合図を待つ間、それぞれ陣形を整える。


「はじめ」


 盾役のタイチが後衛の私達を、敵の攻撃からガードする。

 そうしつつ、射程の長いゲイボルグを振り回しダメージを与える。

 それでも人数的には敵の方が圧倒的に有利だ。

 ガードの脇から漏れた敵は、私が始末する。

 後衛のセイラには、詠唱に集中してもらう。


無数炎矢カウントレス・フレイムアロウ!」


 敵の妖術師ルグルフの方が先に魔法を発動した。

 セイラに向かって一斉に炎の矢が飛ぶ。


「タイチ……」


 セイラの声がうっとりしている。

 彼女の前で焼け焦げた盾を構えるタイチ。

 盾の役目はメンバーを守り切ること。

 タイチはその役目をきっちりと果たした。

 だが、彼のHPがかなり減少している。


「このヤロウ! ナオシゲに続いてセイラまで殺す気か!」


 怒りに任せてルグルフに切り掛かる。


「兄者、冷静になれ!」


 盾が自分から突っ込んで行くな。

 もう我々は不死身では無い。

 私の忠告を無視して、スキルを繰り出す。


怒矛先アングリー・スピアヘッド


 ルグルフに突き立てたゲイボルグが300の矢じりとなり、彼は肉片となり、メガネだけが原形をとどめていた。


「今だ。行け!」


 デクの指示で、敵がタイチに一斉に襲い掛かる。

 だが、タイチは使い物にならなくなった盾を持ったまま、攻撃すら発動出来ないでいた。


 『再発動時間リアクティブタイム


 その言葉が私の脳裏によぎる。

 スキルを繰り出した後、次の動作に入る前に空白の時間が出来る。

 それはスキルの強さによって比例する。

 怒矛先アングリー・スピアヘッドの様な大技だと、20秒は何も出来ない。


「やるな」


 レベル90の戦士職であるタイチに勝とうと思ったら、こういう戦い方しかないのだろう。

 私は黒装束の懐に手を入れる。


「使わせてもらうぞ」


 私はガイアから貰った召喚玉サモンを地面に叩きつけた。

 叩きつけた場所を中心に魔法陣が楕円状に広がる。

 天から光の柱が魔法陣の中心に向かって、突き刺さる。


「おおっ! ケルベロス!」


 誰かが驚きの声が上げる。

 召喚されたのは3つの頭を持つ地獄の番犬だった。


つづく

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