第20話 NPCとプレイヤーは絶対結ばれない運命にある

 そろそろ姫への伝令が届いた頃だろう。

 私は珈琲を一口飲んだ。

 人間同士なら通信で済むのだろうが、我々NPC同士は伝令を介してやり取りしなければならない。

 この世界において、そう設定されている。

 どちらにしても、姫からの伝令を私は待つ。


「ネスコ」

「何だ? ユウタ」

「あなたは何故、救世主を探していたのですか?」


 彼から見て、亜人間の私が人間の味方をしている様に見えるのだろう。

 彼が不思議に思うのも当然だ。

 亜人間と人間は仲が悪い。

 人間が亜人間を辺境に追いやったからだ。

 私は亜人間でありながら、救世主を探していた。

 それは、人間を手助けすることでもあった。

 救世主を見つけ出すことは、人間の敵である魔王を倒すことに繋がるのだから。

 私は彼に本当のことを教えることにした。


「それが私の運命だからだ」

「運命?」


 ユウタが混乱している。

 私はそんな彼を、純粋だと思った。


「ネスコ。あなたは一体、何者なのですか?」

「NPCだ」

「NPC?」


 ユウタが不思議そうな顔をしている。

 無理も無い。

 私は髭を肉球で撫でながら、こう言う。


「この世界において、人間とモンスター以外はNPCだ。NPCとは人間とモンスターの様に自ら運命を切り開くことは出来ない。代わりに、あらかじめ定められた運命を全うすることで、人間を一定の方向へ導く。それがNPCだ」


 ユウタの顔が悲しそうになった。

 私の言おうとしていることが分かったのだろう。

 ユウタはフィナの方を見た。

 フィナが小さく頷いた。


「ネスコ。あなたの運命は、救世主を見つけ出すことですか?」

「そうだ。そして共に戦うことだ」


 私は彼を安心させるために、大きく頷いてやった。


「私は幼い頃、人間に命を救われた。だから、亜人類でありながら人間の味方をすることにした」

「その話も?」

「そうだ。運命だ」


 ユウタの目が潤み始めた。

 この話には続きがあるが、今は言わない。


「フィナも?」

「フィナもだ」


 ユウタの目から涙があふれた。


「フィナはエルフ族の姫で、救世主と出会うことが運命として定められていた。そして、救世主と共に戦う」

「ユウター! なに泣いてんだ?」


 フィナがユウタの顔を覗き込む。

 種族の違いならまだ乗り越えられる。

 だが、ユウタは本能的に感じ取ったのだろう。

 フィナと一緒にはなれないと。


「ユウタ。お前は人間だ。だから運命を切り開くことが出来る」

「……うん」

「お前次第で、我々の運命を変えることが出来るかもしれん」

「うん」


 ユウタは力強く頷いた。

 そうやって自信をつけさせることも、私の運命には設定されていた。


「ユウター!」

「何?」

「フィナ、迷子にならない様にユウタの側にいるからね」


 フィナもまた、そう設定されていた。

 全ては魔王を倒すために。


つづく

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