第21話 私は兄者をバカにする奴は許さない。愛する人を奪った罪も償ってもらう。

 リサは街の真ん中にあるギルドホールの前で立ち止まった。


(あそこは……)


 彼女が入ろうとしているギルドホール。

 その向かいにある宿屋の屋上。

 私は彼女を見下ろせるその位置で、身を潜めていた。

 あのギルドホールにはペガサス旅団が入居している。


「なるほど、そういうことか……」


 点と点が線で繋がりそうだ。

 私は黒装束の懐から二匹の虫を取り出す。

 

「行け」


 オスの方をリサに向けて飛ばす。

 体長1cmほどの蠅に似た虫は、あるじである私の指示通り動く。

 私はメスの方を耳たぶに取り付けた。



男<リサ。お疲れさん>

リサ<デク。お疲れ様じゃないわよ。こっちはいつバレるかとヒヤヒヤしてたんだから>


 デクの髭面が脳裏に浮かぶ。

 彼はペガサス旅団のギルドマスターだ。


リサ<あのタイチとかいうヤツの相手するの大変だったんだから>

デク<すまんすまん。だけど、あいつは馬鹿な奴だぜ。ああいうのを脳筋野郎っていうんだ。お前の誘惑にまんまと引っ掛かって騙されてるとも気付かないんだもんな>


 なるほど。

 タイチはリサを酒場で引き抜いたと言っていた。

 あれはやはり仕組まれたことだったのか。

 そんなことよりも……私は兄者をバカにされたことに腹が立った。


デク<今度、お礼にディナーでも連れてってやるから。なっ>

リサ<約束よ>


 リサに取り付いたオスと、私に取り付いたメスが通信することで、デクとリサの話が筒抜けだ。

 会話からデクはリサと付き合っている様だ。

 憐れなタイチの姿が脳裏に浮かぶ。


 通信虫はつがいで飼う。

 あるじの言うことを聴くまでに数年の調教が必要だ。

 そして、暗殺者でなければ使えない。

 私が5歳の頃、練習用に倒したゴブリンがたまたまドロップしたレアアイテムだ。


デク<お前ら、ちょっと下がってろ>


 部下達の足音が響く。

 大事な話でもする気か。


デク<リサ、今すぐお前を我がギルドに戻したいところだが、しばらくはソロで活動してくれ>

リサ<ほとぼりが冷めるまで、ね>

デク<そうだ>


 どういうことだ?


デク<お前がすぐにギルドに戻ったら、俺達……というか、DEATHの思惑が絶対成敗や鉄騎同盟にバレる>

リサ<分かってる>

デク<ま、形式上ソロなだけで、俺はお前と行動するから安心しろ>


 なるほど。

 DEATHの思惑……それがこの抗争の裏にあったか。

 リサはただの駒だ。


デク<ま、お前のお陰でDEATHの思惑通り、絶対成敗からポンの商売を奪うことが出来た。これで俺も組織内での出世が約束されたよ>

リサ<今後も頼りにしてるわよ>

デク<ああ……。お前には高級な宿屋を用意しておいた。しばらくはそこを拠点に活動してくれ>

リサ<分かった>



 DEATHは絶対成敗が有するポンの商売が欲しかった。

 奪うにはどうすればいいか。

 リサを餌にして、ペガサス旅団と鉄騎同盟を争わせる。

 他のギルドと組んで、和解案を提示する。

 こんなところか。

 答え合わせしたい。


 私が今いる宿屋。

 奇遇だった。

 そこにリサが入って行く。

 私は彼女を殺すことにした。


つづく

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