第22話 全裸の美人治癒魔法使いを、背後から血で染め上げる。そう、私は復讐に燃えた暗殺者。

 私はクローゼットの中で息を潜め、ターゲットが来るのを待つ。


 扉が開く。


 白い髪に白いローブの治癒魔法使いが入って来た。


「よいしょ」


 肩に掛けたカバンを下ろし、ローブを脱ごうとする。

 風呂にでも入るつもりか。


 

 風呂上がりの無防備な背中に、音も無く近づく。



 首筋に冷やりとしたものを感じたのだろう。

 リサは恐る恐る後ろを振り向いた。


「リンネ!」


 リサがそう叫んだ瞬間、私は彼女の喉を小刀で掻っ切った。


「ぼえええええええ!」


 真一文字に切られた裂け目から、断末魔と一緒に血が噴水みたいに噴き出した。

 それがスイートルームのシャンデリアを真っ赤に染める。

 リサは必死に治癒魔法を唱えようとする。

 私はそんな彼女の正面に回り込む。


「黙れ」


 魔法を詠唱出来ない様に舌を切り落とす。

 ナマコみたいに絨毯の上に落ちたそれを、爪先で握りつぶす。

 リサのHPが徐々に減って行く。


「そこに座れ」


 ベッドに座らせる。


「質問に答えろ」


 紙を渡す。

 ペンが無いので、リサの血で文字を書かせることにした。


「タイチに近づいたのは、ペガサス旅団と鉄騎同盟を争わせるためか」

<はい>

「それは、DEATHが絶対成敗からポンの商売を奪うためか」

<はい>


 答え合わせは済んだ。

 私は決心した。

 復讐する。

 兄者をバカにし、私から愛する人を奪ったDEATHとその仲間達を。


「まず、お前からだ」


 私に睨まれたリサが、ビクリと両肩を震わせる。

 彼女のHPが徐々に回復している。

 彼女ほどのレベルなら無詠唱でも治癒魔法が使えるのだろう。


「させない!」


 私は彼女の脳天にクナイを突き立てた。

 彼女の真っ白の髪が、イチゴかき氷みたいにつむじから真っ赤に染まる。

 丁度、脳の言語野の辺りを貫いたはずだ。

 これで、無詠唱も出来ない。


「ぶぶぶぶ」


 彼女は口から血を吐きながら、本能的な動きで命乞いして来るが、私は無視した。


 刺す。

 突く。

 切る。


 気付けば真っ赤な正方形の中にいた。

 ターゲットを密かにこの世から消すことが、暗殺者の仕事。

 それなのに、この有様は何だ。

 私は冷静さを失ったことを反省した。

 ズタズタにされたリサの死体。

 私はそれを抱えた。



 私は良く眠れなかった。

 そのせいで翌朝、ベッドで朝日を浴びながらまどろんでいた。


「リサが殺されたぞ!」


 タイチが新聞片手に私の部屋に飛び込んで来た。

 この世界における情報収集の手段として、有料の新聞を読むことは重要だ。


<ソロの美人治癒魔法使い殺人事件>


 見出しにはそう書かれている。

 新聞の売れ行きを良くするために、派手な見出しがよく使われる。

 紙面には私が切り刻んだリサの死体が載っている。

 『転写トランス・スクリプション』スキルを持った記者が撮ったものか。


「一体、なんでだ?」


 タイチが困惑している。

 リサの死体は見せしめのために、ペガサス旅団が入居するギルドホールに放置した。


「兄者」


 私は意を決する。


「なんだ?」

「話がある」


つづく

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