第19話 攻略本さえあれば簡単にクリア出来る! そう思ってた時期もありました…… ってか、NPCの扱いってぞんざいじゃね?

「レベルが30になりました」

「HPが2315になりました」

「MPが2000になりました」

全員中回復エブリワン・ミドルリカバリを覚えました」


 機械的な女性の声が、僕の脳内に響く。

 パンケーキを食べている間も、僕はレベルアップしていた。

 放置状態でレベルアップするのは、僕が『救世主』だからか。

 ……って、救世主って何?


 ネスコは一冊のノートを取り出した。

 開くとそこには文字や絵がびっしりと描かれていた。

 僕はページをめくった。


「ギルドの作り方。効率の良いレベルアップ方法。魔法の種類。モンスターの特徴……これは一体?」

「この世界の『攻略本』だ」

「攻略本?」

「ここを読め」


 と肉球で指した。


<『救世主』は『守護者』を引き連れ魔王を倒す>


 左胸がうずいた。

 シャツの下の星型のあざが光った。


<救世主の左胸には星形の聖痕がある。エルフ族の姫と救世主は、惹かれ合う運命にある。救世主はエルフのワルツでその使命に目覚める>


 攻略本にはそう書かれている。


「ユウタ。お前はフィナの『目覚めのワルツ』で『救世主』に目覚めた」

「……ということは、フィナはエルフ族の姫……」

「すごいでしょー?」


 フィナが自慢げに言う。

 彼女の小さな鼻の頭には、パンケーキに添えられていた生クリームが付いたままだ。


「……僕には救世主なんて……」


 僕は気を落ち着けようと、珈琲を一口飲んだ。


「大丈夫! 私がついてるから!」


 フィナが僕の背中をバシッと叩く。

 僕は珈琲を噴き出した。


「ネスコ」

「何だ?」

「あなたは面接の時、僕のあざを確認していた。その時から僕が救世主だと思っていたの?」

「否、胸にあざがある人間なんて、普通にいる。フィナがピンと来たから採用してみた」

「なるほど……」


 あの面接をフィナは隠れて覗いてた。

 僕はフィナの方を見た。


「えへへ」


 彼女は照れ臭そうに笑った。



「ネスコから救世主が見つかったと連絡が入りました」


 伝令の者が私にそう言う。


「ありがとう」


 全人間を統べる私は、いつも冷静であらなければならない。

 だが、救世主がついに現れたという一報は、私を興奮させた。


「姫?」

「下がってよい」


 誰も居なくなった大広間。

 そこは私の執務室でもある。

 攻略本によると、救世主は必ず現れるが、それがいつかは分からないと記されていた。

 全ては神のみぞ知る。

 魔王の脅威はすぐ側まで来ているが、私は時に任せることにした。

 救世主にしか魔王は倒せないのだから。


 そして遂に現れた。

 魔王が倒されることが現実になった。

 だが、攻略本にはそれ以上のことは書かれていない。

 魔王が倒された後、この世界はどうなるのか。

 特に、NPCと呼ばれる我々の運命については、一切書かれていなかった。


つづく

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