146. 翔子と第十階層

 最後の?同期が終わってそっと手を離す私とチョコ。


「じゃ、お互い頑張りましょ」


「うん」


 最後に拳同士をコツンと合わせる。やってみたかったんだよね、これ。


「じゃ、向こうに着いたら、ディーの風の精霊でスタートを伝えるので」


「はい」


「またね!」


 チョコとミシャ様たちが樹洞うろに向かって消えていく。潜り終わったら閉じるように言ってあるので、しばらく待機なんだけど、その間にやることをやっておく。

 混沌空間が分離してる間に、旧パルテームの王族の亡霊を倒さないといけない。なので……


「聖域ヨシ! 加護ヨシ!」


「加護は美琴にもゴーレムにもしっかりかかっているようだな」


「なんだか翔子さんにハグしてもらってるみたいですね」


 そのセリフはなんか恥ずかしいのでやめてください……

 ともかく、ちゃんとかかってるようで一安心。


『こちらは準備オッケーです』


「こちらも大丈夫です」


 ミシャ様の声が聞こえ、智沙さんが応答する。

 続いてチョコの声が聞こえてきた。


『時間合わせ、どうぞ』


「オッケー、3・2・1・0」


『作戦スタートです』


 うんうん、お約束お約束。


「では、一時間後に第九階層の目標地点で」


『あ、はい、了解です』


 振り返った智沙さんにうなずく私。


「気をつけてくださいね。ご武運を」


「うん。まあ、ちゃちゃっと済ませてきます」


 じゃ、行きましょうか!


***


 量産型チョコにLEDランタンを装着してもらい、サクサクと進む私たち。

 もう何度も来ているし、ついこの間も来たところなので目的地までは半時間ほどで到着。


 まずは預かった魔導具——空間安定装置を設置。どっちを前にしないととかはないらしいけど、まあ正面?を混沌空間の方に向けておく。


「設置完了です」


「ふむ。ここから先の戦闘に不要な道具はここに置いておこうか」


「ですね」


 亡霊だか悪霊だかを倒した後は、菊媛お姉様を祀るための簡単な神棚を持って来てる。ひとまずは簡単なので良いって話だったから組み立て式。

 落ち着いたらちゃんと神社にしたいと思ってるんだけど、ここに来ていい人が限られてるからなあ。


「時間まで先に組み立てをしておこうか。今日は無理だったとしてもいずれ使うだろう」


「はーい」


 二人して簡易神棚を組み立てて時間を潰すことに。智沙さんがチラチラと時計を確認しているので、熱中して連絡を見逃すことはないと思う。

 けど、それもサクッと組み立て終わってしまって……


「お供え物は後にしようか」


「ですね」


 お米、お塩、日本酒なんかも持ってきてある。あと菊媛お姉様が好きそうな、今風のお菓子とか。


「そろそろだな」


「了解です」


 魔導具の後ろに立つ。上面にあるボタンを押すだけの簡単なお仕事だけど、まずは『レディー?』の合図待ち。


 ちらっと目を挙げると、混沌空間は相変わらず混沌としていて、本当にあれがなんとかなるのかという気になってくる。うん、見るのやめよう……


「時間だ」


「はい」


 そう答えて一分も経たない間に腕輪が光り、赤い石が転送されてきた。さて、いよいよかな。今ごろチョコも緊張してるんだろうなあ。


「すぅー…はぁー……」


 深呼吸をして心を落ち着かせてると再び腕輪が光り、緑の石が転送されて来た。


「起動します」


 智沙さんの答えを待たずに起動ボタンを押す。

 この本番用の空間安定装置は、ちゃんと同期起動したかすぐにはわからないらしい。五分ほど待てば結果がわかるとのこと。

 ちゃんと同期してればそのまま動き続けるし、ダメだったら停止するそうだ。ダメだった場合は、そこから五分後の赤い石からやり直しという手はず。


「大丈夫かな?」


「問題ないさ。ダメだったらやり直せばいい」


 そう言いつつ、自分の装備を確認している智沙さん。もう、成功することを確信してるムーブですよね、それ。


「ワフ」


「ヨミ〜」


 ヨミを撫でることで緊張をほぐすライフハック。チョコには申し訳ないけど……あれ? クロスケさんがモフらせてくれたりするのかも? それはそれで羨ましい……


 チャッチャッチャッチャラチャラッララ〜♪


 また、この音楽ですか! ……まあ、緊張感をほぐしてくれたんだと思おう。

 混沌空間の方に目をやると……


「おおおー、なんだかほどけていってる?」


「どうやら成功のようだな」


 本当にコーヒーにミルクが混ざっていくのを逆再生してる感じ。解けていく空間が綺麗になって、最初に来たときの階段が見えてきた。


「さて、そろそろ行こうか」


「はい」


「ワフッ!」


 行動して良い時間は三十分。第十階層は大きめの一部屋だけらしいけど、それも空間が安定すれば半分になるはず。


 智沙さんが先頭に少しずつ歩を進める。ぱっと見は安定してるけど、混沌状態を知ってるだけに慎重に。

 ヨミを挟んで私、その後ろに量産型チョコが続く。


「階段も問題なさそうだ」


「はい。慎重に行きましょう」


「うむ」


 一歩ずつゆっくりと階段を降り、第十階層に到着。

 照らし出される先も空間は安定してるようだけど……


「智沙さん、やばいのが来ます」


「うむ」


 すごい。今までは聖域と加護でほとんどわからなかった悪寒が久しぶりに。足が止まったりはしないけど「ヤベー奴が来る」って感覚が……


「ヲヲヲヲヲヲヲッ!!」


 正面から突進してきたのは首無し鎧。デュラハン? って首がどこにもない? 手に持ってるんじゃなかったっけ? というか、その声はどこから!?


「はっ!」


 智沙さんが斬りかかってきたデュラハンの長剣ロングソードを払うと、その長剣ロングソードがポッキリと折れる。相手の長剣ロングソードが脆いのか、智沙さんの警棒がすごいのか……


「ふんっ!」


 そのまま真っ直ぐ胸を貫き、次の瞬間、体全てが光の粒となって消えた。智沙さん、強くなりすぎじゃないですかね?


「問題なさそうだな」


「ちょっと驚きましたけど、この子たちにサポートするまでもなかったですね」


「相手が一体だったからな。複数で来た場合は頼む」


「はい」


 警棒はそのままに、目線の先に広がる部屋に目をやる智沙さん。

 まだピリピリとした悪寒というか、悪意の波動みたいなものが聖域に干渉してくるのは続いたまま。


「まだ部屋の中にいます。矢とか魔法とかが飛んできても、ちゃんと避けてくださいね。私はこの子たちもいますし」


「うむ、手はず通りに行こう。相手がこちらより多いようなら、この通路に誘い込んで対処を」


「はい」


「ワフッ!」

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