145. 翔子とチョコと最終同期
「「じゃ、行ってきます」」
「おう! まあ、美紗が面倒を見てくれるとは思うが、気をつけろよ?」
館長さんが私とチョコをガッツリとハグしてくれ、なんだかむず痒い感じ。
たっぷり五分近く力強いハグされた後に、笑顔で送り出してくれた。
「忘れ物はないです?」
「ないかな?」
「まあ、あっても送るし」
私とチョコがもらった腕輪は転送魔法の宛先になるし、忘れ物があってもぱぱっと転送して解決するんだけど……
「翔子ちゃんからチョコちゃんは良いけど、逆は十分に気をつけてください。何もない場所に急に現れるから」
「「気をつけます」」
ミシャ様にきっちりと釘を刺される。
まあ、この腕輪で転送するのは急ぎの用の時だけ。送って良いのは、お互いの世界に存在するものだけっていう縛りももちろんあり。
基本的には美琴さんが持っている転送の箱を使わせてもらう予定。
あの引き出しから転送される先はベルグ王国にあるミシャ様のお屋敷だそうで、チョコはそこにお世話になることになっている。
「チョコちゃんのこと頼むぜ?」
「ええ、責任を持って預かるから」
館長さんとミシャ様ががっちりと握手。昨日はまた二人だけでいろいろと話してたっぽいけど、二人とも大人だなあと。
「では出発しようか」
智沙さんの声がかかり、皆がハンヴィーに乗り込む。
「またね!」
「おう、またな!」
ルルさんが車の窓越しに元気よく言うと、館長さんも嬉しそうに答える。
ゆっくりと進み出したハンヴィー。チョコは館長さんが見えなくなるまで、六条邸に向かって手を振り続けた……
***
「そういえば、ミシャ様のお宅って二階が土足厳禁だとか聞きましたけど、やっぱり畳とか敷いてあるんです?」
「さすがにそこまではしてないかな。い草っぽいものは見つけたけど、畳の作り方とか全然わからないし」
そんな話をチョコとミシャ様がしている。
向こうでの生活が不安ってわけでもないけど、前に行った時は「やっぱり文化レベルが違うなあ」と思ったので、その辺りの確認を。
とはいえ、やっぱりミシャ様のお屋敷はだいぶ日本っぽくなってるようで、魔法付与で作った冷蔵庫やらオーブンやら電子レンジがあるそうで。
「それってフェリア様とかルナリア様とかにバレたらうるさくないです?」
「うん、なので内緒にしといて」
やっぱり……。万年筆のことをマルリーさんやサーラさんがバラしてたのは伝えておくべきなんだろうか。
一方で美琴さんは、ルルさんやディアナさんとお話し中。
「では、魔王様といっても悪い人じゃないんですね」
「そだよ。すっごく優しいんだ!」
「まあ、苦労人だな」
美琴さんは向こうの地理・歴史・世界情勢について興味津々らしく、いろいろと質問している。
「向こうのことを聞いてどうするんです?」
「ルナリア様に向こうの世界で羊羹を作れないかと相談されていまして」
「あー……」
で、羊羹ってどうやってる作るの? 小豆が必要そうなのはなんとなくわかるけど。
「ワフッ!」
ヨミが元気よく神樹へと駆け出していく。
先日『警備』の命令を出した量産型チョコがお出迎えしてくれるんだけど、仮面に光る目だけってのがちょっと怖い。
「美琴はここで待機だな」
「はい」
なんらか異常が起きた時にはここまで戻ってくることになっていて、美琴さんは万一のことがあった時に連絡してもらうことになっている。
そんな縁起でもないって話だけど、そういうこともちゃんと考えておくのがヨーコさんの教えってやつで。
「じゃ、それぞれのチームに分かれましょうか」
「「はい」」
アイリスチームはチョコ、ミシャ様、ルルさん、ディアナさん、クロスケさん。テラチームは私、智沙さん、ヨミと量産型二体。
警備命令を出していた量産型を一度全員集めて、二体は私の警護、一体は美琴さんの警護にあてる。
「じゃ、本番用の空間安定装置を渡しますね」
そう言うと、何もないところから魔導具を二つ取り出すミシャ様。
なんか、魔素を水に変える古代魔導具——コスモクリーナーに似てる感じ。
「改めてになるけど、使い方は起動ボタン押したら終わりです。シンクロに成功すれば、五分ほどで空間が安定しますので、あとは手はず通りに」
「「了解です」」
さて、いよいよ開始かな?
「じゃ……始めましょうか」
「了解です。チョコ君のことを頼みます」
「それはもちろん。でも、作戦がうまく行って、
智沙さんと握手するミシャ様。それに続くように各々が握手をしていく。
と、ヨミとクロスケさんが向かい合っておすわりしてるのが、なんかエモい。こう『ヨミよ。しっかりやるのだぞ……』とか言われてたりするのかな。
「では、翔子殿、頼む」
「はい」
神樹にそっと手をあてて……
「神樹さん、
するすると大きくなる
「おっきくなってない?」
「チョコもそう思うよね?」
二人してミシャ様を見る。何かご存知ですよね?
「えっと、多分、
「はい。首にかけてあります」
菊媛お姉様にもらったっていうか、第十階層に祀るように預かった勾玉は無くすと洒落にならないので組紐を通して首にかけてある。
「
「まあ、多分? アイリスフィアが黄泉の国ってわけではないと思うんですけどね……」
智沙さんの推理にミシャ様が苦笑したところで、
「ワフ?」
名前を呼ばれたのかと思ったヨミが「なになに?」って顔をする。
「ヨミを呼んだわけじゃないからね。じゃ、そろそろ行くけど、翔子のこと頼んだよ?」
「ワフッ!」
頭を撫でられ、任せとけと言わんばかりに答えるヨミ。
それを見て安心したのか、クロスケさんがスッと立ち上がってミシャ様のそばへ。
「じゃ、始めましょうか」
「はい。あっと、翔子」
「うん、そうだね」
チョコと手のひらを合わせ、作戦前の最後の同期。
お互い自分っていう不思議な存在だけど、やっぱりヨミやこっちの人たちと会えなくなるのはちょっと寂しいよね。
ちゃんと写真撮って送るから許して欲しい。その分、『フェリア様とルナリア様を愛でる権利をやろう』ってやつで。
「うん、それ逆に大変なやつ」
「デスヨネー」
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